0と1が伝えたもの
8回光らせる…
4回光らせる…
とにかくそれだけを繰り返した。
私は今、手足を縛られ猿轡をされて納屋のような所に放り込まれている。その放り込まれる一瞬に見えた景色で、私は何処に放り込まれたかは認識できたが、ここには窓がなく、今の外の様子は分からない。
奴隷攫いの会話から、暗くなったところで町の外に運ばれるらしい。
でも、ご主人様から預かったモールス君を取られなかったのは幸いだった。どうやら奴隷攫いにはただ光るだけのオモチャに見えたようだ。いや、正確には取られそうになったけど、その時に狂ったように暴れてやったのだ。
そしたら、奴らは諦めたように私にモールス君を返した。
もの狂いと思ったのだろう。私のような奴隷にはよくあることだ。大した利益にならないなと残念がっていたが知った事ではない。
8回光らせる…
4回光らせる…
きっと…きっと…ご主人様ならわかってくれるはず。
このモールス君は本当に凄い。こうやって離れた所とでも連絡が出来るのだ。こんな凄い物を作るご主人様ならきっと…
でも…と、同時に思う。
きっと分かってくれる。
でも、分かってくれたとしても。ご主人様はきてくれるのだろうか。
元々私はご主人様からすれば押し付けられた奴隷だ。ベルーナの賠償としてだが、元々ご主人様があの件で損失した金額にくらべたら私などでは全然足りない。
寧ろ私の食事、服、宿代など考えたら余計にお金が掛かっている。丁度いい厄介払いと思われてもおかしくないのだ。
…私の奴隷の首輪はまだ青く光っているだろうか。自分からは見えないのがもどかしい。
これが赤く光ったら、私はまた別の所に売られるのだろう。きっとロクでもない所だと思うけど、ベルーナの所と大差ないだろうとは思う。きっとあの頃ならそれほど不安には思わなかった。でも今は不安で堪らない。…怖い…
8回光らせる…
4回光らせる…
答えるようにモールス君はゆっくりしたリズムで明滅にを繰り返す。その光だけが私に微かな希望を与えてくれる。ご主人様が大丈夫だって言ってくれてる気がする。
だから私も繰り返す。
8回光らせる…
4回光らせる…
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どの位経っただろうか。納屋の扉が開かれた。扉の向こうに外の様子が見える。多分ここに連れてこられてから1刻も経っていないだろうが日はとっぷりと暮れている。
今日は月が出ていない。空もくもってしまったのか星も見えない。暗い夜だ。
町の警備に通報があったらしい。多分ご主人様だろう。
検問が本格的に厳しくなる前に町を抜けてしまおうという事を話している。
駄目だ。ココを離れられたらもう居場所をご主人様につたえられない。
屈強な大男が私を担ぎ上げる。
暴れてもビクともしない。
外には川があり、そこには小舟が浮いているのが見えた。黒く塗られたそれはこの闇夜ではほとんど見えない。
きっとそのまま下流に流されて町を出たところで回収されるのだろう。
いやだ、いやだ…
いくらあばれてもダメだった。
でもあれに乗せられたらもう…
と、焦げ臭い匂いがして来た。
なにっ?と見ると。黒い船から煙が…やがてチロチロと赤い物がみえたと思うとそれは一気に炎に包まれた。
その瞬間鈍い音が響き、同時に私を抱えていた男が突然バランスを崩した。
放り出されるように空中に投げ出される私。
そのまま地面に落ちる私を別の逞しい腕が…
グラッ…ドサッ
…いや、逞しく無かった腕は私を受け止めようとして抱えきれずに倒れこんだ。
「ゆ、ユリス。お前の問題難しすぎだ。」
そう言って私を受け止めそこなって、下敷きになったその人は笑った。
でも
ご主人様なら
分かってくれるって
信じてました。