怪しげな古びた店
雫たちはそれから目的を決めずにふらふらと王都の街並みを鑑賞しつつ歩いていた。雫が興味を引かれる店などがあれば立ち寄ろうとのことだったのだが今のところそういった店は無かった。
「店の数も人の数も他よりたくさんですけど目新しいものが少ないです。」
他よりも充実した品揃えの店ばかりの王都であったが他の街にもある店ばかりのため飽きてきた雫なのであった。
「やっぱりそういった他の街にもあるような需要がある店は人がいっぱいいる通りにあるですし、私は人がいなさそうな所にいってみるです。行くですよわんこたち。」
まだ見ぬ驚きを求めて雫たちは人通りの少ない方に進んで行くのであった。
亜人の街や王都のようなメインとは別の街の発見もプレイヤーたちによって順調に進んでいた。その街にしかない限定品や雫は利用していないが普通のプレイヤーたちはほとんど皆が利用しているギルドもその街でしか受注できない限定クエストなどを用意している場合が多く新たに発見された街などにはプレイヤーが集まっていた。
また今回のアップデートの目玉の「ダンジョン街」にも色々なレベルのままであるプレイヤーが自分にあった難易度やモンスターが出るダンジョンを選択し攻略に勤しんでいた。噂では各ダンジョンにいるボスを倒せばレアドロップが期待できると張り切っているようだ。
新モンスターや新スキル、魔法はまだ検証が終わっていないので何とも言えないが今回のアップデートの反応は上々であったのである。
そんな感じで新機能を堪能しているプレイヤーが大勢いるなか、雫は王都において未知を求めて探索を続けていた。
そんな最中、雫は入り組んだ路地の果てのような所に1つの古びた家がポツンと立っているのを発見した。一応何かの店のようである。
見るからに怪しげなのだがその家にこれまで王都で見てきた店 にはないものを感じた雫は入ってみることにした。
「いらっしゃい。自分で言うのもなんだけどよくこんな所に来る気になったね。貴方変わってるわね。」
店に入ると意外にもそこそこ若めの女性がいた。
「別に少し引かれるものがあったです。少し見て回らせてもらうです。」
雫は店の商品を見てみることにしたのだが、酷いものであった。呪われているのではないかと見間違う程に装備時のデメリットの嵐。これを見たらこんな所に店を出している理由にも検討がいくものである。しかし雫はアイテムの性能なんかではなく別のことに目を向けていた。雫が思うにこれらの商品は
「錬金術で作られてるです。これ全部。」
雫が作るアイテムにどこか似た物が多く、雫はこれらの商品が錬金術師によって製造された物であることに気がついた。すると店員の女性は
「よく気がついたわね。ということは貴方も錬金術師のようね。なら分かるでしょ私の実力が。こんな駄作しか作れない私の実力が。それが分かったんならもうこの店から…」
突然怒りを露にし捲し立てるよう言い始める店員の言葉を遮り雫は声を発する。
「良い出来です。多分ここの錬金術師のギルドにいた錬金術師よりも腕があるです。」
雫の率直な感想に面食らったような顔をする店員であった。雫も色々と考えながらアイテムを作っているのでこの店の商品もそのようにして作られていることが分かった。しかも細やかな配慮などもしっかりとされており錬成や精製の精度が高いことも見てとれたのであった。
そんな雫の言葉を聞いた店員はいきなり笑いだした。
「あっはっはっはぁ。ビックリしたわ。まさか私の商品を見ただけでそんなことまで分かるような人がこんな場所に来るなんて。面白いわね。そうなのよ。こういう客を私は待っていたのよ。」
と楽しそうに笑う店員は
「そんな違いが分かる貴方にお願いがあるのよ。まあ簡単に言うとクエストかしらね。面白い貴方がもっと面白くなれるようにね。」
店員がそう言った直後、雫の目の前にクエストの文字が浮かぶ。
「まあそこに書いてある素材を持ってきて欲しいの。素材は全てこの王都周辺のフィールドで採れるものよ。」
訳も分からぬまま、雫はクエストを受けることとなったのであった。




