怒れるシスター
小枝が考えついた作戦はというと確実性のないかなり行き当たりばったりのものであった。しかしクラーケンの強さを目の当たりにしたプレイヤーたちにとって真正面から突っ込むよりも勝機があるように思えた。
「昨日も言いましたがあの作戦でいいですか?」
次の日。ということは緊急クエストの最終日になって小枝は各プレイヤーに呼び掛ける。反論はいくらでもあるがじゃあ別の案があるかというと黙るしかない。攻略法を探すような時間はもう残されておらす実質これがラストチャンスであるためとれる手段がもう無いのであった。
「そうだな。君の作戦に懸けるしかないだろう。だが1ついいか?この作戦の要であるあのスキルには対象者に触れなければならないだろう。あれに触れるのか?」
それはクラーケンの攻撃を避けながら実行可能かと聞いていた。その問いに小枝は
「やります。」
静かに頷くのであった。
不安は残るものの時間は刻一刻と過ぎていってるため各プレイヤーが神殿と港に別れて向かっていく。港に着いたプレイヤーたちは見事に直っている船にほっとするのであった。各員ただちに船に乗り込み海に出る準備を始めるのであった。
一方、神殿に着いたプレイヤーたちも海底トンネルに進んでいっていたのだが前日までと全く違う光景に戸惑いを隠せない様子であった。呆然とするプレイヤーたち。プレイヤーたちが見た光景というと。
「おいおい、これは何の冗談だよ。何でモンスターがいないんだよ....」
ある者がたまらず呟く。言い過ぎと言うことではない。全く一匹もいないということではないが前日までと比べるといないも同然といったモンスター数であった。
「よ、よくわからないがこれはチャンスと考えよう。今は考えるよりも進むべきだ。」
罠の可能性も考えられるが本当に時間がないためリスクを冒しても今は進むべきだとアックスは考えた。その指示に従って警戒しながらも海底トンネルを進んでいくのであった。
ただ海の上の方はそこまでモンスターが少ないというわけでもなく前日までと比べると少しだけといった程度であった。そのため海底トンネルを進むプレイヤーたちの方が先にどんどん進んでいった。
海底トンネルも中盤を過ぎる付近に差し掛かると今までほとんど気配すら感じなかったモンスターが大量に集まっているのが確認できた。
「やっぱり罠だったんじゃないか?」
という声もどこからか聞こえてくるがそれはすぐに間違いだと気づく。その集まっているモンスターがどんどん吹き飛ばされていくのである。そしてそのモンスターの中心には見覚えのある女性が奮闘していた。
「ふふふ。海王様の縄張りに現れた異端なモンスターたちよ速やかに浄化するのです。」
穏やかにモンスターに話しかけているが顔は笑っておらずしかも巨大な戦斧を軽く振り回す姿は全く合っていなかった。
「え、えーとあの女性を援護しよう。」
その光景に戸惑いながらも怒れるシスターに協力するプレイヤーたちであった。
「あら、ありがとうございます。」
そんな助っ人参戦のお陰で海底トンネルを進むスピードは早い。船に乗っているプレイヤーたちも負けじと進んで行ったため予想よりもかなり早い到着となった。
「よし。それじゃあリベンジといこうじゃないか。」
アックスの掛け声とともに勢いよくクラーケンに挑んでいくプレイヤーであった。
前回とは違いクラーケンの攻撃はあのシスターに集中していた。またシスターもその攻撃をいなしながら反撃もしっかりと決めていた。
他のプレイヤーたちは攻撃に対処するプレイヤーと遠距離魔法で攻撃するプレイヤーに別れていた。
「どうこえだ?触れられそう?」
「まだタイミングが掴めてません。もう少し待ってください。」
そうこうしている内に被害が出始める。特に船を守る必要があるプレイヤーたちはかなり厳しく徐々にその数を減らしていっていた。それでも前回のように視界を奪われそのまま敗北ということにはならないようになんとか立ち回っていた。そしてクラーケンのダメージが5分の1ほど削れた頃クラーケンが「海魔法」で海水を操作し始めた。そうすると船のプレイヤーはもろに影響を受けるため対処が不可能になってくる。
「今船がなくなるのは困る。『無力』」
アックスがスキルで自身のMPと引き換えにクラーケンの海魔法を無効化する。
「こえだ!まだか。」
さすがにいつ崩壊してもおかしくないほど戦況はボロボロであった。シスターがいなかったらと思うとゾッとするほどだった。
「....よし。はい大丈夫です。いつでも行けます。」
小枝はそう返答する。すると待ってましたとアックスが残っているプレイヤーに指示を出す。
「船のプレイヤーはクラーケンの注意を引き付けてくれ。そしたらこっちはシスターさんと協力してクラーケンの足一本を押さえ込むぞ。勝負は一度きりだ。集中しろよ。」
アックスの指示を受けた船上のプレイヤーは考えを巡らせていた。
「注意を引き付けてくれって言われてもどうするよ。」
と言うといきなり
「私に1つ考えがあります。」
この戦闘を裏方として支えてきた生産職プレイヤーのトップであるハルが意見を出す。
「これを使いましょう。」
「ドッカーーーーーーーン」
海の中からでも聞こえる特大の爆発音に驚きを隠せないプレイヤーたち。しかし今はそんなときではない。クラーケンの攻撃が止まっているため、今が最大のチャンスであった。
「今だ。足を押さえろ。」
はっと気がつき行動を開始するプレイヤーたち。数秒もすればすぐに振り払われるだろうが一応足止めに成功する。そして数秒もあれば小枝には十分であった。すぐさま駆け寄り『カスタム』でLUKに全ステータスをつぎ込む。
「『泥棒』」
小枝が発動したスキルは『泥棒』。相手の持っているアイテムをランダムに1つ奪うというスキルであった。デメリットは成功率が極めて低い上プレイヤーに対しての成功率はさらに悪いという点。さらに成功、失敗に限らず1人につき一回しか使えず、武器や防具は奪えないため大体はモンスターが回復アイテムなどを所持している場合などに使用するスキルであったが今回はそのスキルを使用した。
「えーと。やったあった。」
小枝はクラーケンからモンスターの異常発生の原因であるお香を奪うことに成功したのだ。次の瞬間押さえ込んでいたプレイヤーたちが予想通り吹き飛ばされて宙を舞うがそんなことを気にせず小枝はそのお香を急いで壊すのであった。
小枝がお香を壊すと憑き物が落ちたようにおとなしくなったクラーケンは、海の底に自ら消えていった。そしてそれに続くように他のモンスターたちもクラーケンに付いていった。これにて緊急クエストがクリアされたのであった。




