圧倒的な敗北
モンスターの包囲網を突破したプレイヤーたちの快進撃は続いていく。モンスターがほぼ半減したこともあってどんどん先に進んでいった。
海中のプレイヤーの後に続くように船上のプレイヤーたちも奮闘していた。船上での動き方も慣れ始めたためモンスターの撃退もかなりスムーズに出来るようになってきていた。このまま順調にいって欲しいと皆が思っていたのである。
このように海中のプレイヤーの後を追って船が進んで行ったため先にボス部屋で緊急クエスト用のボスの姿を視認したのは海中のプレイヤーたちであった。プレイヤーたちが見たボスの姿は一言で言うと巨大なタコ足であった。
「タコだよな。でも規格外にでかいな。」
プレイヤーたちの感想はそれにつきた。海の中ではタコの巨大な足しか確認でないほどの大きさなのであった。
海中のプレイヤーたちがボスフィールドに到着した時見た光景は、海を荒らしながら誰かと戦っている様子の巨大なタコであった。
「おっおい。あれなんだよ。よくわからん化け物がよくわからん動きをとってるぞ。」
「俺が知るか。というか今からあれと戦うのかよ。」
船上にいるプレイヤーは相手のあまりの大きさに思わず弱腰になってしまう。そして次の瞬間タコ。個体名を「クラーケン」が船を一瞥する。
「おいあのタコこっちに気づいたっぽいぞ。」
「そのようだな。でも....な!」
その時船上のプレイヤーたちは突如として視界を奪われた。クラーケンは多量の墨を吐いたのであった。船上はパニックに陥る。そんな状態でクラーケンの攻撃に対処できる者は存在しなかった。クラーケンは巨大な足を船に叩きつける。その衝撃で船の上にいたプレイヤーたちは未だに視界を奪われた状態で海に投げ出される。幸い船は無事とは言いがたいがなんとか形を保っていた。
船を投げ出されたプレイヤーたちは海中のモンスターたちの前にあえなく倒されていってしまった。そしてそれを見た船を操る船長は
「すまんが逃げるぞ。さすがにあんな化け物を相手にするのにプレイヤーもいないんじゃ無理だ。」
と言いながら船を後退させていった。
海の上にプレイヤーがいなくなってしまったがそれは海中も同じであった。ほとんどのプレイヤーは巨大なタコの足に成す術なく倒されていった。なんとか持ちこたえていたプレイヤーたちも上のプレイヤーがいなくなってしまったことにより増えたモンスターによって逃げ場を失ってしまった。ベルやアックス、小枝なども奮闘したが敵わず。最初のクラーケンとの戦闘は圧倒的な敗北で幕を閉じてしまった。
クラーケンとの戦闘は正直、相手の攻撃を防ぐのに手一杯で攻撃に回ることすら難しいというのが現状であった。それでも諦めないプレイヤーたち。特に一瞬で倒された海の上のプレイヤーたちはすぐさま第5の街の港に集まった。しかしそこに行くと申し訳なさそうに船長が立っていた。
「すまんが船は出せない。さっきの航海で船がひどく損傷してしまった。今急ピッチで復旧作業をしているが明日の朝までかかりそうだ。また明日来てくれ。」
船がなければ海底トンネルを抜けることも難しいプレイヤーたち。彼らに残された時間は明日のみ。そして明日一回でクラーケンを倒せなければクエストはクリアできない。絶望的状況であったのである。現在有力なクランの盟主たち等の有力プレイヤーが作戦会議をしているが状況は改善されない。
そんな絶望的な第5の街とは対照的なのが第1第2の街のプレイヤーたちである。ついに彼らは原因の討伐に成功したのである。第1の原因の熊と少年には最初にこのボスに挑んだパーティーたちがリベンジを果たした。といってもそのパーティーだけで倒したのではなく赤い熊と少年以外の取り巻きは他のプレイヤーやNPCの亜人が対処するというチームプレーで勝利を掴んだのであった。そして第2の原因は主にラン率いる亜人の集団が撃破に大いに貢献した。第2のボスは真っ黒なグリフォンであり通常のボスであるグリフォンとは比べ物にならないほどの威力の暴風を操る強者であったが亜人たちが攻撃を防いでいる間にプレイヤーたちが魔法で攻撃を仕掛けどうにか討伐に成功したのであった。
そんな報告を攻略サイトで見た小枝は雫に電話をかけていた。
「もしもし。しずちゃん今、大丈夫?」
「別に平気です。さっきまで寝てたですけど。それで何です?」
「えーとさ。しずちゃんが倒した第3と第4の緊急クエスト用のボスってなんか黒いお香みたいの持ってた?」
「ああ。持ってたです。確かそれ壊したら街のタイムリミットが止まったっぽいです。それがなんです?」
「いやそれだけ確認したかったの。ありがとね。じゃあまたね。」
そう言い電話を切った小枝は再びゲームに戻っていった。
「?何だったんです。まあいいかです。」
ゲームに戻った小枝は作戦会議が行われている場所に駆け込んだ。
「みなさん。1つ私に作戦があります!」
小枝が語った作戦にそこにいたプレイヤーたちは様々な表情を浮かべるのだった。
場所は変わって海王の神殿。そこでは状況を知らない一人のプレイヤーが海底トンネルに入ろうとしていた。すると
「おいおい。止めとけよ。無駄死にするだけだぞ。今は皆クラーケンっていう巨大なタコにやられたんで誰もフィールドにいないからな。」
「まじかよ。助かったよ。あんな所にソロで特攻するところだったからな。しょうがねえー。今日は別のフィールドでレベル上げかな?」
「じゃあ俺も付き合うぜ。」
そう言いながら神殿を去っていくプレイヤーたちの会話を密かに聞いていた1つの影。
「クラーケン?巨大なタコ?海王様の縄張りにそのような不敬な輩が....速やかに対処しなければ。」
物騒な独り言を残し神殿の奧に消えていった影であった。




