小枝の試練
雫が第4のフィールドでキノコ男爵を倒したことにより他のプレイヤーたちも各フィールドに散らばり原因探しを開始し始めた。特に第1の街や第2の街を主の拠点としている後発のプレイヤーにとってはこのクエストはもしかすると上に行ける格好のチャンスかもしれないため他よりもさらに気合いが入っていた。ただ今唯一クリアしているプレイヤーが雫であるため原因を倒したときの報酬等の詳細が一切入ってこないという問題もあったがそれでも少しずつクエストの攻略が進んでいった。
そんな中、意外にも一番クエストの進捗状況が悪いのが第5のフィールドであった。クエスト開始から攻略に向けて動き出していた第5のフィールドであったが未だ海王の神殿の試練の攻略者は現れていなかった。そしてそんな状況に嫌気が指して別のフィールドに行ってしまうプレイヤーさえいたのであった。
緊急クエストがアナウンスされてから10時間以上が経過して現在夜の10時を過ぎた頃であった。社会人にとってはここからがゲームの時間であるし、今は夏休みとあって夜更かしする学生も多くいるためまだまだゲーム内のプレイヤーが減ることはない。しかし雫にとってはこの時間はもう寝る時間のためとっくにログアウトしていた。
「それでこんな時間に電話してきてなんです小枝。」
「ああごめんね。ちょっとしずちゃんに聞きたいことがあったんだ。」
「なんです?」
「次はどこのフィールドに行くの?」
「ああ、その事ですか。それなら行かない予定です。少なくとも明日は。明日の予定は決まってるです。」
「そっか。それならいいんだ。第5のフィールドは私が倒すつもりだから。」
「ふーん。それなら頑張るです。応援してるです。私は明日はとりあえずキノコで遊ぶです。それじゃバイバイです。」
「えっちょっと、キノコで遊ぶって…切れてるよ。」
雫の最後の言葉に一抹の不安を感じた小枝であった。
次の日の朝小枝は海王の神殿の試練を受けに来ていた。
「さーてこれまでの情報から一応作戦は考えているけどどうなるかな。」
小枝の試練が始まった。
試練の相手は自分のコピーのため格好から動きの癖まで小枝そっくりであった。小枝の装備はクラン対抗戦から使っている竜装備を強化したものであった。
「シズちゃんならここでいくです、とか言うと思うんだけどな。ふふ。まあ行こうかな。」
小枝は『カスタム』でトップスピードになって斬りかかっていく。するとやはり相手も同じ攻撃を繰り出してくる。鍔競り合いになるが互角。その後の攻撃も全く差がなくダメージが与えられない状態であった。
「やっぱり普通にやっても無理か。まあそりゃそうだよね。それで勝てたら苦労はないよね。じゃあ次いこう。相手は私が出す技を同じタイミングで繰り出してくるから、難しい重ね技は厳禁。凡ミスをしたらほぼ負け決定っと。『投擲』」
突然のスキル発動にもしっかりと対応してくるコピーに感心しつつ次に移行する。
「『スラッシュ』『ダブルスラッシュ』『スピア』っと」
【『スラッシュ』『ダブルスラッシュ』『スピア』】
「『アサシネイト』」
【『アサシネイト』】
「ふふ。やっぱりダメか。地味に『カスタム』でステータス弄ってたのに全部同じだよ。ならこれで最後かな。」
少しのミスすら許されないこの戦闘で長期戦は避けたい小枝は、次で決めるため勝負を仕掛けることにした。
「ふぅー。頼むよ。『スロット』」
【『スロット』】
小枝と相手のコピーの上にスロットが現れ回り始める。このスキルはスロットの出た数の大きさに応じてステータスが上がる技であった。
「私と同じ行動をする完全なコピーかもしれないけどこういった運が介在するスキルなら私のコピーとか関係ないよね。」
ただしこの作戦には欠点が存在する。運が介在するため運で負ければ終わりなのだ。
運命のスロットが止まる。出た数は、
「6」
【2】
小枝がコピーに勝っていた。
「よし。じゃあいくよ。『カスタム』」
小枝は上乗せされたステータスをパワーとスピードに振る。コピーもそうするがパワーもスピードも小枝の方が高い。今度の鍔競り合いでは、小枝がコピーを弾き飛ばす。相手に隙が生まれた瞬間勝負はついていた。ようやく二人目の試練攻略者が現れたのだった。
「ふぅ危なかったなー。この試練強ければ強いほど不利になってくよね。シズちゃんは、どうやって勝ったんだろ。」
雫の勝ち方を聞いたら驚くどころではすまない気がするがまあいいだろう。第5のフィールドでようやく進展があったのだった。




