ふかふかです
森を探索し始めてからかなりの時間が経っていた。わんこの活躍で、雫のレベルもいくつか上昇していた。例によってDEXに振っていく。
森のモンスターは状態異常にする攻撃を多用する虫系が多い。そんなこともあってかプレイヤーの数はほとんどいない。
ゲームの正式なルートは別なので無理に入ってくる必要はないのだ。
このような森で雫が探索できる理由は、
わんこの優秀さだけではなく、雫の中級草の効果も地味に役立っているのだ。
「ステータス振るときにスキルの欄に何個か増えてたです。私なんかやったです?」
雫の増えたスキルは『採取』と『集中』どちらも生産には便利なスキルである。
「そろそろ暗くなってきたです。そろそろ街に戻るです。いくです。わんこ」
「わん わん」
暗くなってくるとモンスターの傾向も変わってくるため危険度は増す。明るいうちは、なかったトラップなども一定数あるのだ。
「ん?なんか光ってるです。ちょっといってみるです。」
好奇心は猫を殺す。雫が光源に近づくとサイレンの音が鳴り響く
「なんです。うるさいです。」
「ヴぅー わん わん」
わんこが吠える。その先には先程まで
わんこが戦っていたモンスター達、しかし数が倍近くいる。
「ちょっまずいです。どうしようです。」
雫が珍しく狼狽する中、先手必勝とわんこが駆け出す。
さっきまでも複数相手にしていただけあり、
着実に相手にダメージを与えていく。
「さすがです。でもこのままだと数が多すぎです。」
3,4体ならわんこが勝つだろうが相手はその倍以上いる。さすがに一匹では手が足りない。
「なんかないですか。なにか!」
わんこが苦戦している理由の一つが雫のところに敵が来ないようにしているからだ。それがわかっているので雫はできる手がないか探る。
「相手にダメージを与えるものです。錬金術師は戦闘職のはずです。なにか。」
残念ながら錬金術師は魔法をスキルとして取得するしかない。取得方法はスキル屋という施設で買うくらいしかないため今手に入らない。
「遠くから攻撃するです。なんか投げつける。でも攻撃力ないです。」
打つ手がないように思われたその時。
「投げつける、ダメージ、 あれならいけるかもです。」
この森には状態異常攻撃をする虫以外にこんな虫がいる。自爆する虫が。
「何体か自爆する前にわんこが倒してたのの死骸があったですよ。成功してくれです。錬成」
爆撃虫+石→失敗
「もう一度です。錬成」
爆撃虫+石→失敗
「たのむです。成功してくれです。錬成」
爆撃虫+石→爆発石(小)
「やったです。」
錬成に成功してわんこの方を見ると満身創痍
「効果があるかわからんです。でも迷ってられんです。」
雫は爆発石(小)を敵目掛けて投擲した。普通混戦で揉み合っている中、敵に当たることは稀なのだが幸い雫はDEX極振り、DEXの補正は手先の器用さと命中率上昇。
「やったです。当たったです。」
雫がゲームを始めてから初のダメージ、相手モンスターに深刻なダメージが入った。
しかし戦局は変わらない敵の数は半分近くなったが、わんこはもう持たないだろう。
雫ももう打つ手はない。祈るように雫は叫んだ。
「わんこ!負けるなです。」
その言葉を受けたわんこが突然輝きだした。
当然といえば当然だったのかもしれない。
昨日と今日だけでかなりの数のモンスターを一匹で倒し続けた成果が
主人の声により応えられたのは、必然だったのかもしれない。
進化が起こったのだ。
強くなったわんこは残っていた敵モンスターを一掃した。進化するとダメージが回復したため
半数になった敵など相手ではないようだった。
「わん わん 」
大きくなっても鳴き声は変わらず可愛いまま雫に駆け寄る。
「わんこ。」
感極まった様子で。こうしていると普通の少女のように、
「ふかふかです。気持ち良さそうです。」
やっぱりどこかずれている雫は、
さっきまでのシリアスな空気はどこえやら、大きくなったわんこを撫で回すのだった。
どんなにわんこが強くなってもカッコよくなっても鳴き声が変わることはありません。
作者のこだわりです。ご理解ください。