本選の開始
2回も話が消えるという事故。本当に泣きそうになりました。
イベント2日目。予選を突破したプレイヤーたちがイベント本部のフィールド上に上がっていた。それ以外のプレイヤーも観客席で本選出場者を見ている。
「さて、本日は最強決定戦2日目。昨日の予選を見事突破した16名による本選が本日行われます。本選に進出した皆様は勿論のこと惜しくも本選に残れなかった皆様もこのイベントに参加していただいたことをお礼申し上げます。それでは本日の本選のルールについて説明いたします……」
司会者の説明が続いていく。でもやはり観客席のプレイヤーの注目は本選に進んだ16名である。前回、前々回のイベントでもトップの成績を修めたベルやアックス。その他にもクランのマスターであったりと名を知られているプレイヤーが並ぶ中、やはり異彩を放っていたのは、わんこと鉄ちゃんであった。
「そういえばさ、こえだは今回のイベントはどうだったです。」
「うーん、まあ予選でベルさんのグループに入っちゃったから悔しいけど、しょうがないかなって思ってる。ベルさん本当に凄いんだよ。複数人が纏めてかかっても関係なくバッタバッタとなぎ倒していくんだもん。私も倒されちゃった。」
「そうですか。それは凄いんです。」
「まあ凄さでいったらわんこちゃんと鉄ちゃんも同じかそれ以上だけどね。私、あの2人の戦闘を見て呆然としちゃったっけ。」
「まあわんこも鉄ちゃんも凄いです。」
いつもならわんこと鉄ちゃんを褒めるとアンフェが嫉妬してくるのだが今日は小枝の妖精のポポちゃんと一緒に雫たちの上を飛び回っている。
「あっ説明終わったぽいです。」
「それでは最強決定戦本選トーナメントを開始します。16名の皆様は優勝目指して頑張ってください。」
最強決定戦本選が始まる。
本選1回戦は、大番狂わせもなく順当に進んでいった。わんこと鉄ちゃんの相手は昨日の2人の戦いぶりを見てしまっており、戦う前から恐れてしまって震えていた。
「わんこも鉄ちゃんもよく頑張ったです。」
「凄いよね。でも次のわんこちゃんの相手はあのアックスさんだからさっきみたいにはいかないで苦戦するんじゃないかな。」
「アックスですか。っとそれじゃ鉄ちゃんの相手は誰なんですか?」
「えーとね、鉄ちゃんの相手は…」
「ふふ、私よ。それにしてもこえだもひどいわね。私の出番を覚えてくれてないなんて。」
雫たちの会話に割り込んできたのは小枝のクランの盟主、レディであった。
「久し振りね。第3の街で会って以来かしら?」
「そうかもです。」
「ふふ、でも余裕ね。次の対戦相手すらわかっていないなんて。」
「別に私が戦うわけじゃねぇーです。だから対戦相手じゃないです。」
「そうかもしれないわね。でも余裕があることに変わり無いでしょう。でも竜が相手でも簡単に負けるつもりはないわ。私が火竜を倒したのはパーティーでだけれど、それからも私も強くなっているのよ。」
そう言い残してレディは、去っていった。
「こえだ、あの人はもしかして火龍の巣穴に行ったですか?それで火龍を倒したです?」
「倒してないと思うよ。さっきの話は第3のフィールドボスの火竜のことだと思うよ。」
「そうですか。」
レディは、戦いにおいてやってはいけないことをしてしまった。やろうとしてやったわけではないかもしれないが戦う相手を過小評価してしまったのだ。そしてそれをしてしまったレディに鉄ちゃんを倒せる道理はないのである。
「それでは本選2回戦も最後となりました。対戦カードはわんこVSアックスです。両者はフィールドに上がってください。」
わんことアックスが戦闘フィールドに上がる。
「久し振りだな。と言ってもお前じゃわからんか、でも最初に会った頃から警戒してたよ。昨日もお前の戦闘を見ていた。だから大体お前の能力もわかっている。これまでのようにはいかないからな。」
アックスが話しかけているがわんこが返事をしないため独り言のようになっている。
「それでは両者頑張ってください。では、本選2回戦最終戦開始です。」
司会の合図で戦闘が始まる。
「俺たち前衛職にとって遠距離攻撃は鬼門だ。だが俺はこれのお陰でそれの心配をほとんどしなくていい。」
アックスはゲームのサービス開始からトップをひた走っているプレイヤーである。雫たちと同じようにセット装備を持っていた。アックスの持っているセット装備は「無力の侍」これによって得られるスキル『無力』自分のMPをゼロにすることで相手の魔法攻撃を食らわないようにするという効果である。
「お前のあの黒い物体は影だろう。なら使ってるのは影魔法だ。それなら俺には通用しない。」
アックスは勝ち誇っている。
するとわんこは影を操り始める。
「やはりこっちの会話は聞こえないか。」
アックスが呟くがわんこはアックスに魔法が効かないことを理解している。わんこの目的は影による攻撃ではない。
「わんわんわん」
わんこは影で2本の腕を造る。そしてその腕で剣を抜く。わんこのセット装備、「火龍の騎士」の剣を。
「ほう。お前も剣で来るか。」
「くぅん」
わんこは憐れむようにアックスを見る。アックスは気づいていない。
「まずは私からいかせてもらおう。」
わんこに向かって常人では目で追うのも難しい速度で攻撃を仕掛けるアックス。
「わん」
それをわんこは、さらりと回避する。そして攻撃で生じた一瞬の隙、アックスがわんこから目を離した一瞬の間にわんこは消える。
「無駄だ。予選の映像を見る限りお前は影に潜ったら、影で攻撃する以外の攻撃方法はない。」
アックスの推察は正しい。影魔法の弱点の1つである。だがそれはわんこが武器を持っていない場合に限る。
「なん…だと…」
わんこが武器を影で持った理由はそこに在ったのだ。地面から出てくるわんこばかりを警戒していたアックスは普通の武器の警戒を怠ってしまったのだ。そのためアックスに剣が突き刺さる。
「まだだ。まだ勝負はついてない。影魔法が食らわないのは変わってないんだ。それなら…」
わんこが地面から現れる。さっきまでと違いわんこの体は真っ赤に燃え盛っていた。
「わんわん」
「まだだ。まだだーー。」
相手のまだあった手札に混乱したアックスは通常ではあり得ないが何も考えずに突っ込んでいった。そうなってしまったらもうアックスに勝ち目はない。ランとの特訓によりさらに洗練された接近戦の動きでアックスを翻弄しながら『焔化』によりさらに強くなった通常攻撃でアックスを倒したのである。
これにより本選もあと準決勝と決勝を残すのみとなった。残りは4名だけである。




