理解者は挟まれる
雫は第5の街を散策していた。
「何か南国にいるみたいです。」
この街は戦闘に使えるような特産品は無い。そういったものではなく観光地のような街であった。
「それにしてもモンスターの異常発生って怪しいです。もしかしたら何かあるかもです。誰かに少し聞いてみるです。」
雫は誰かに異常発生のことを聞いてみようと思った。するとちょうど入っていた店の店員が雫に話しかけてきた。
「お嬢ちゃん、異常発生のことなんか気にするなんて珍しいね。どうかしたかい。」
「別に大したことはないですけど気になったです。」
「まあ、連絡船が休航になるなんて、滅多にあるもんじゃないしね。もしかしたら氾濫するかもね。」
「氾濫ですか。」
「そう。氾濫って言っても海の水じゃないよ。モンスターの氾濫さ。まあ伝説とかそういった類いのもんなんだけどね、基本的に街の中にモンスターが入ってくることはないし、街で襲われることは無い筈なのに、昔起きたって言われてる氾濫ではそんなこと関係なしに街中にモンスターがっていう話があるのさ。その時も連絡船が出せなかったらしいんだよ。まあ本当かどうかも怪しいものだけどね。」
「へー。ありがとうです。」
店員の話を聞いた雫であった。
イベントを終えたプレイヤーたち、彼らは第3のフィールドボスである火竜を討伐するために殺到していた。しかし未だに火竜を倒したパーティーはゼロであった。
これまで色々なプレイヤーが検証してきた結果、ボス戦のルールのようなものがわかってきた。そのなかに一度ボスを倒したプレイヤーでもパーティー内に一人でもクリアしてない者がいた場合もう一度戦えるというのがある。それに気がついたプレイヤーが雫の存在を思い出した。
「絶対に第4のボスと火龍を倒したのってあの女の子だろ。あの子をパーティーにできれば。」
「あの子の居場所が分かればな。今第5の街かそのフィールドに居るだろ。」
「でもこの前ここら辺に出没したらしいぞ。」
そんな会話を聞いていたのはレディ率いる「少女の楽園」のクランメンバーと小枝であった。今日は火竜に挑むのではなくその前のフィールドでレベル上げに来ていた。
「ねえ、こえだってあの噂のシズってプレイヤーの唯一のフレンドなんでしょ。それならお願いできるんじゃない。」
クランメンバーの一人が小枝に言うと
「シズちゃんに?無理じゃないかな。」
「えー。でもほら竜の素材もくれたし面倒見が良いというか、頼まれたらやってくれそうじゃない。シズって人。」
小枝は深いため息を吐いた後こう続ける。
「違うよ。シズちゃんは基本的に頼まれても自分が面倒だったらやらないよ。だからクランにも入らないし、アイテム製作の依頼も断ったんだよ。」
「でもこえだは結局貰ったんでしょ。」
「まあね。色々あるんだよ。でも火竜討伐の手助けはシズちゃんに何の得も無いし無理だよ。」
小枝はそう締め括った。
小枝はクランメンバーと離れて独り言を呟く。
「わかってないな。まあ私もわかんないこと多いけどね。」
小枝が雫についてハッキリ分かることそれは、
「シズちゃんってレディさんのこと苦手だからなー。」
雫が色々と自分にしてくれるのは親友だからだけでなく、レディに会いたくないからだと小枝は思っていた。雫と小枝の間にしっかりとした交流があるうちはレディも強引に間に入ってこないだろうと雫も思っているのだろうと小枝は考えている。
「はあー。人付き合いは大事なんだけど、面倒って言ったらシズちゃんは関わらないからな。」
恩人と親友との板挟みであった。
「まあ何とかなるかな?」
それから数日後火竜を倒し第4の街に到達したパーティーが現れ初めた。ただそれらのパーティーも第4の森フィールドには苦戦することとなる。
そんな中雫はと言うと今日も第5の街でNPCの話を聞いていた。
「それで何でしたっけ。」
「ああそうだった。あれだろ昔、連絡船が無かったときどうやって第6の街へ行ってたかだろ。っていっても詳しいことは知らないぞ。何かこの街のどこかに海底トンネルの入口があるって話だ。昔はそこから行き来してたんだと。」
「そうですか。ありがとうです。探してみるです。」
雫の独走はまだまだ続くかもしれない。




