竜と龍
「さて本日はクラン対抗戦。旗取り合戦に参加してくれてありがとうございます。ご存知の通り本日は皆さんが所属しているクランからのご参加となります。それでは戦闘フィールドに転移します。転移から一分後にイベントは開始となります。前回イベントと同じく制限時間は5時間です。それではご健闘をお祈りしています。」
司会の始まりの号令を運営の部屋から聞いていた運営の人たちはほっと溜め息をつく。
「無事に始まったな。ふう、あとは何も問題がなければ良いんだけど。そう言えばあのシズってプレイヤーはどこのクランに所属しているんだ?」
「いや、あの子はどこのクランにも所属してなかったはずだ。」
「本当か、なら今回のイベントには参加してないのか。それなら安心できる。」
「そうだな、あのプレイヤー前回表彰式の途中で退出とかしてたからな。」
「まあ今回は良いな。」
そんな会話をイベント開始時にしていた。
「ん?おい」
「なんだよ。何か変なことでもあったか?今のところ結構な接戦ってだけだろ。」
「いや今ちらっと見えた女の子が竜装備を着てたように見えてちょっと気になってな。」
「そんな訳ないだろ。火竜はあのプレイヤー以外に倒されてないんだから。そんなことよりも不具合が起こらないかしっかり見張れよ。」
運営の尽力もありイベントは何事もなく進行していく。
「ふうー、何とか終わったな。色々と波乱はあったけど、大体予定通りに終了したな。」
「でも1位、2位はまあわかるけど3位はちょっと俺の予想と違ったわ。」
「ああ女の子達だけのクランだろ。何かこの子達の装備がさ…」
運営の人たちの会話をぶったぎるようにボス討伐のアナウンスが入る。
「エリアボス 火龍が撃破されました。撃破したプレイヤーが匿名を希望したため名前は公表いたしません。」
「おい、火龍って隠しフィールドじゃねぇーか。誰だよ、」
「いやいや、あのプレイヤーしかいないだろ。」
「そんなこと言ったっていくらあのパーティーが強くても火龍は無理だろ。あの初見殺しだぞ。鬼畜な範囲攻撃バンバン放ってくるように設定してんだぞ。」
「そんなことよりも、」
「ああそうだな。まずは事態の収拾を図らないと。ああ、ほら会場は大騒ぎですよ。」
それから運営の人たちは今回のイベントで最も精力的に働くこととなる。
場面は変わって雫。火龍を倒したあとの報酬を確認していた。まずは火竜装備。それもシリーズ物一式である。雫の「知識の到達者」と同じである。
火龍の騎士 火属性無効。このシリーズを揃って装備することで『焔化』を獲得。
「何かカッコよさげです。でもこれ誰か着れます?」
前回装備を手に入れたときと同じようなことを考えた雫。
「まあ細かいことはあとですね。ドロップもやっぱり多いです。あとはスキルですか。『龍撃』ってのはやっぱり鉄ちゃんに上げるです。」
『龍撃』。通常攻撃に龍属性を付加するスキルである。そのためただでさえ強い攻撃力がもっと強力となる。
「まあでも一番は鉄ちゃんですね。」
魔人を倒したあとわんこの進化が起こった。そして今回火龍を倒したことによって、ついに鉄ちゃんが進化したのだ。とはいえ「鉄竜」が「鉄龍」となっただけであるが。それでも雫は嬉しそうである。
「『鉄竜使役』も鉄龍に変わってるです。やっぱり竜と龍じゃ全然違うです。鉄ちゃん凄いです。」
更に強力となった雫たちパーティー。クラン対抗戦の裏で起こったボス戦はこれで終結した。




