イベントの裏の激闘
「さて本日はクラン対抗戦。旗取り合戦に参加してくれてありがとうございます。ご存知の通り本日は皆さんが所属しているクランからのご参加となります。それでは戦闘フィールドに転移します。転移から一分後にイベントは開始となります。前回イベントと同じく制限時間は5時間です。それではご健闘をお祈りしています。」
その言葉の後プレイヤーがクランごとに転移していった。
他のプレイヤーたちがクラン対抗戦で激闘を繰り広げている頃雫は、わんこたちと共に「火龍の巣穴」にいた。
「かなり進んだはずですけどまだ終わりが見えんです。長いです。」
「わんわん」
「でもこんなにゲームの中にいるのは初めてです。もうすぐお昼ですね。ということはもうイベントも始まったです。さえも頑張ってるですかね。よーし私も頑張るです。」
雫は進んでいく。
クランに所属しているプレイヤーでも途中参加は認められないしもともとクランに所属していないプレイヤーもいるため通常のフィールドからでもイベントが視聴できるようになっていた。盛り上がりを見せるクラン対抗戦。今回のイベントでは生産職のプレイヤーのハンデとしてステータスアップや旗一個単位のポイントが生産職の方が多かったり、そのようなハンデもあってイベントのランキングは激しく変動していた。イベントも残り1時間程になり観客も参加者もボルテージがマックスになってきていた。
そしてそんなとき雫のボルテージもマックスになっていた。
「大きな扉です。やっぱりここがボスの部屋ですよね。やっと着いたです。」
イベントそっちのけで頑張った甲斐がありついに「火龍の巣穴」最下層にたどり着いたのであった。
「じゃあいくです。」
雫が扉の前に立つと扉が開く。部屋の中に入るとそこには今まで出てきた竜とは全然違う圧倒的な存在感を放つ龍がそこにはいた。その龍は今までのどのモンスターよりも静かに雫たちの前にたっていた。
「これが龍ですか。やっぱり強いですかね。」
雫は今までの経験から戦闘が始まったことを理解した。雫がボムを手にし火龍に相対していると突然、火龍のブレスが放たれる。それにより部屋の中は火の海と化した。部屋の中には火龍以外いない。全ての存在が燃え尽きてしまったのだ。
「危なかったです。ありがとうですわんこ。」
雫が影から這い出てくる。いくら火龍のブレスが強力でも影を燃やすことは出来ない。
「今度はこっちの番です。鉄ちゃん。」
鉄ちゃんが「鉄竜砲」を放つ。火龍は避けるそぶりも見せない。鉄竜砲が直撃した火龍は殆どかすり傷すら負っていない。
「凄いです。凄い防御力です。ふふふ、でも防御力が凄い相手とならこの前やったばっかです。持久戦です。」
前回の相手は確かに防御力が凄かったが、今回の火龍は攻撃力も凄い。残念ながら持久戦は雫たちが不利なのだがそんなこと雫には関係ない。
「私も色々と勉強してるです。私も新兵器を出すときです。いくですよ「毒玉」」
魔人戦を経験して持久戦が面倒であることがわかった雫は小枝に教えを乞った。そのときの小枝の返答が、
「やっぱり、持久戦は毒とかの状態異常にしてこっちは守りながら回復じゃないかな。混乱とか自滅を狙ってもいいかも。」
であった。以前雫も毒の武器は考えていた。そのため今回のボス戦用に用意していたのだ。
「どうです。私の新兵器は。」
火龍でも毒状態には初めてなったようで少し苦しそうであった。そして雫の攻撃は続く。
「まだまだいくです。てい!」
「ドッカーン」
雫が投じたのはマグマボム、火龍の鱗はボムの威力でも大して傷つけることは出来ないが、このボムには確定で相手を火傷にする。そしてこのゲームでは状態異常は重ねてかけることができる。火龍はスキルで『火属性無効』があるため火傷など負うこともない。火龍は今、初体験を重ねていた。
「ふふふ、毒と爆弾を操るなんて悪の科学者っぽくてカッコいいです。」
大したダメージは負わせてないが雫は嬉しそうである。
大体のボス戦で一番の問題は雫の紙装甲である。ボスどころか普通のモンスターの一撃も致命傷になりかねないというかほぼアウトである。しかしわんこの能力は雫のサポートには適していた。味方を含んでの回避はパーティーでの戦闘では重宝する。しかし火龍もバカではない。ブレスでは避けられるとわかったので、腕や尻尾での攻撃も織り混ぜてくるようになっていた。
そういった1対複数の戦闘でアンフェは地味に重宝する。アンフェの『人気者』で火龍のヘイトはアンフェに向く。そのアンフェがわんことセットで動き回ることで火龍の攻撃の的を絞らせずにすむのである。
「やっぱり鱗の部分に攻撃してもダメです。最も効果的な場所はどこです?」
少しずつだがダメージが重なり、大分警戒心が増した火龍相手に攻撃を食らわせ続けるのは難しい。鱗の防御を貫ける攻撃は無いこともないがこちらの隙が大きすぎる。
「鱗じゃない、鱗じゃ…あっそうです。」
雫は何か思い付いたようだ。
「これなら大ダメージです。」
雫が大ダメージを狙うということは相手の火龍も一網打尽に相手を倒したいと考えていた。今までの雫たちの動きからわんこが全員をブレスから逃がしていることは、わかっている火龍は
わんこが雫との距離が一番の離れたときを狙い雫に向けてブレスを放つ。これならわんこがいくら早くても間に合わない。当の雫はブレスが目前に迫っているためか呆然とブレスを見ている。直撃を確信した火龍。ブレスのせいで雫の表情までは見ることができなかった。雫のほくそ笑む表情を。
「ドゴーーン」
火龍は何が起こったかわからなかったが今までに感じたことのない痛みが襲ってきていることだけはわかった。
「どうです。火を吹くとき口を大きく開ける。だからその隙に口の中にボムを入れてやったです。」
雫は勝ち誇る。火龍がどうやってブレスを防いだことを疑問に思っているようである。その答えは火無効ポーションである。雫では耐性を上げるポーションでは耐性とか関係なく死ぬ1択なのだが、無効ならば問題ない。
しかしこの雫の攻撃が火龍に火をつけてしまった。いきなり火龍が燃え始めたのだ。火龍のスキルである『焔化』。
「凄いです。カッコいいです。でも負けないです。」
雫もやる気である。火龍戦も大詰めを迎えていた。
火龍もブレスは雫がいる限り危ないと感じ接近戦で勝負を仕掛けてくる。こちらには攻撃もさせてくれない。雫たちは防戦一方となった。
「強いです。火無効ポーションも火は無効化できても近接攻撃までは無効にできんです。」
雫は一人では回避できないため、わんこに乗りながら戦闘をしている。
「もう一度爆弾を食べさせたら倒せそうです。何か良い案はないですかね。」
雫は作戦を考えていた。しかし何も思い付かないでいた。そんなときだった。火龍が地面をおもいっきり蹴る。そのせいで地鳴りが起こり地面が激しく揺れる。雫がわんこと一緒にバランスを少し崩す。その隙をついて火龍の拳が雫とわんこに迫る。この戦闘で、初めてのわんこのミス、それは致命的であった。雫を残してわんこだけが影の中に入ってしまったのだ。
「まずいです。これはかな…」
雫は火龍の拳の直撃を受けてHPがゼロとなった。
雫を殺してしまったわんこは茫然自失となり、隙だらけであった。雫が倒れもうためらう必要はなくなったため火龍はわんこに向かってブレスを放つ。通常なら避けれるものでも今のわんこではどうしようもない。直撃かと思われたとき、
「ダメです。隙を見せちゃ。二度目はないですさよならです。」
火龍が聞いた言葉はそれで最後であった。
「いたたです。蘇生薬って便利ですね。」
「さーてクラン対抗戦の表彰式を始めます。まず初めにご参加いただき誠にありがどうございます。……」
司会の話が暫し続く。
「いやーレディさん結構いい線いったんじゃないですかね。」
「そうねそれもこの竜装備のお陰ね。ありがとう。」
「いえいえ、それはシズちゃんのお陰ですし、それに鍛冶で頑張ったアビルさんに悪いです。」
「そうかもしれないけど、あなたのお陰もあるわ。だからありがとう。」
「そうですか…そういえばシズちゃんはイベントほっといて何やって……」
「エリアボス 火龍が撃破されました。撃破したプレイヤーが匿名を希望したため名前は公表いたしません。」
「ああこれですね。シズちゃんらしいなぁー。」
イベントの表彰式中にありえないボス撃破のアナウンス。会場は暫し騒然となった。
敵が範囲攻撃を使ってくると小鉄をだしづらくて…




