混乱する者たち
翌日雫が家に帰る。
「なんだかさえのテンションが異様に高かったです。なんかあったですかね?」
昨日は魔人を倒した疲れですぐにログアウトした雫はイベント前でテンションが上がっている小枝についていくことが出来なかった。
「さてそろそろ私もログインするです。」
雫がゲームに入ると、雫の目の前にはいつもより大きなわんこがいた。
「あれ?わんこ成長期です?もふもふ感が増したです。」
たとえ成長期でも一夜でこんなに大きくはならない。しかし雫は大して気にすることなく受け入れた。
「わんわん」
「ああ進化ですか。結構久しぶりです。」
わんこはワーウルフ・ナイトから月夜狼に進化していた。この前進化したのはランと修行していたときなので、黒騎士に始まり、グリフォン、火竜、魔人とそうそうたる面子を倒してきたので当然と言えば当然であろう。
「じゃあわんこも強くなったことですし、色々行きたいところはあるですが、まずは無くなったボムを補充するです。手持ちの爆弾岩も心許ないですし、鉱山に行くです。」
鉱山に行くついでにと孤児院によって果実を届けながら行く。途中雫が歩くのが面倒になったのでわんこの新技「影収」で移動することになった。これは対象者を自分の影に取り込む技で本来の使い方は拘束なのだがこれを使うと今まで出来なかったわんこと一緒に「影移動」が出来るようになり移動スピードが上がるのだった。雫はわんこの影の中でポーションの錬成をしていた。
火竜への挑戦はしないけど、鉱山は金属が取れるため結構いい狩り場なので多くのプレイヤーがいた。クラン対抗戦ももうすぐなので武器を新調しようとするプレイヤーも多くいた。
そんな賑わいを見せる鉱山にまず聞こえたのは驚きの声、そのあと悲鳴であった。今までゴーレムしか出現しないフィールドでいきなり巨大な狼が現れたからだ。何でこんなところにと思うプレイヤーとレアなモンスターなのではと思うプレイヤーに別れ、後者は狼に飛びかかったのだが、あえなく返り討ちにあったのである。ここでプレイしてる者たちはそれなりのレベルを持ったプレイヤーである。それが簡単に倒されたことで残された者たちは恐怖した。そんなとき場違いなのんきな声が聞こえてきた。
「わんこ。着いたなら出すです。採取は私がやるです。」
狼の影から現れたのは少女であった。
「おお、やっぱりここにはプレイヤーがたくさんいるですね。でておいで鉄ちゃん。」
次に少女は鉄の竜を呼び出す。もう他のプレイヤーは声もでない。
「行くです。レッツゴーです。」
意気揚々と鉱山を逆走していく、呆然とするプレイヤーを残して。
「久しぶりに第3の街に来た気がするです。」
無事爆弾岩の採取を終えた雫は第3の街にいた。
「このまま亜人の街まで行ってもいいですけどどうするですかね。」
雫はわんこの影に入りながら次の行き先を考えていた。鉄ちゃんも誘ったのだがわんこの影に入るのは嫌なようなので、召喚を解除しアンフェと一緒に入っている。街中で狼が一人だけという状態は凄まじく目立っているのだがわんこだけなので話しかけてくるものはいない。
「もうすぐイベントよね。上位入賞を狙うにはもうひと押し必要よね。」
「そうですね。私たちのクランはそこまで大きくはないですからね。」
「そうね、でも量より質よ。それにチームワークは他には負けないわよ。」
「そうです……」
レディと小枝が話していると目の前に大きな狼が歩いていた。
「もしかしてあれが現在最強のプレイヤーの相棒かしら。」
「最強のプレイヤーですか?それは前回のイベントの優勝者のベルさんのですか?」
「違うわよ。前回総合トップだった…」
レディがそう言い掛けると、突然
「あれ?さえです。こんなところでどうしたです?」
ぬっと雫が影から出て来る。
「え?しずちゃん。え?しずちゃんこそなんでその狼から?え?」
小枝は混乱した。




