樹の魔人
雫が貰った白い玉は、スキル玉というものでランダムでスキルが手にはいるというものであった。雫は少し考えて
「カリンが綺麗だからってくれた物です。折角ですからとっておくです。」
といって使わずにとっておくこととなった。
それから少し経ってついにクラン対抗戦の正式な日程とルールが発表された。かなりの数のクランが設立されており、凄い賑わいを見せると予想されていた。
当然のように小枝の所属しているクラン「少女の楽園」でも大盛り上がりであった。
「レディさん、遂に来ましたね。来週ですよ来週。」
「そうね、でも落ち着いて。はいはい皆も落ち着いてね。まずは発表されたルールのおさらいをするわよ。」
今回のクラン対抗戦。それは旗取り合戦であった。旗を入手し自分達の陣地までそれを運んだら自分達のポイントとなる。
「フィールド内に散らばった旗を取り合う勝負になるわ。ということはやっぱりスピードがある子達に旗取りをお願いするわね。私達みたいな足が遅い後衛タイプは護衛を主にするわよ。」
旗を持っているときに倒されると倒した相手に旗が渡る。前回のイベントと似たところがあった。
「でも今回は自分達の陣地まで旗を運べれば相手に奪われることはないから安心できるわ。」
こうした作戦会議は各クランで行われた。
クラン対抗戦まであと一週間を切り各プレイヤーがそれに向けて準備をしているなか雫はというと、
「やっと着いたですよ。長かったです。」
森の最奥、フィールドボスのところに来ていた。
「やっぱり、ボスのところって普通のフィールドと違って開けているです。」
そんなことを言っていると、
「ここに人が来るのは久しいな。歓迎しよう。我こそがこの森の主である。」
現れたのは雫と同じぐらいの背丈の少年であった。
「子供です。」
雫が呟くと
「誰が子供か。我は魔人であるぞ。」
魔人である。と言われても雫にはわけがわからない。雫が知ってる魔人はランプからしか出てこない。
「魔人ってなんですか。」
雫が聞くと、魔人は偉そうに答える。
「ふふふ、我はあのエルダートレントから進化した、崇高なる魔人である。」
「あのとか崇高なるとか言われてもです。まず、エルダートレントって、何です。凄いんですか。」
「何故知らん。お前はこの森を通ってきたはずであろう。」
雫は今回の森探索は不意打ちしてくる敵を逆に不意打ちで倒していたので敵の名前などいちいち確認していないのだった。
「まあいい、ここでトレントの恐ろしさをとくと味わっていくといい。」
大体偉そうな口を利くやつは弱いのが相場であるが、こいつはそうではなかった。わんこの影魔法、鉄ちゃんの「鉄竜砲」をなんなく防ぐ。
「ふふふ、このフィールドはわが手中にある。」
この魔人はスキル『魔力看破』によって魔法がどこにくるかを予測してしまうため回避されてしまうのだ。
「それならこれはどうです。」
雫の自慢のボムを魔人に投げつけるが、
「ふふふ、我、樹霊魔法の前ではそんなものは効かん。「樹木結界」」
樹の壁によって魔人にダメージがいかない。
「もういいかそれならこっちからいくぞ、「眷属召喚」「眷属強化」」
魔人によって生み出されたトレントたちは通常のトレントよりも圧倒的に強くなっていた。しかし強くなっていても誤差の範囲である。
「ドッカーン」
「そんなものをいくら出しても意味ないです。」
雫のボムによって全て消滅してしまう。
「さてあの魔人とやらに攻撃を食らわす方法を考えるです。」
雫たちと魔人の戦いは長時間に及んだ。「樹霊魔法」は攻撃よりも防御に重きをおいている。そのため雫たちの攻撃は防げても倒すだけの火力が足りないのだ両者ともに決定打に欠けていた。
「忌々しい人族めが。そろそろ終わりにしようか。」
「こっちもそのつもりです。でも方法が無いです。」
正直な雫である。
「我を虚仮にする気か。」
魔人の語気がますます荒くなっている。そして
「そんなに殺してほしければ殺してやるわ。「樹霊嵐」」
樹の枝が雫たちに襲いかかってくる。
「わっちょあぶないです。てい。」
雫もボムで応戦していく。わんこや鉄ちゃんも反撃するが徐々に押され始める。負けが近づいてくるのを感じた雫。そんなときわんこが雫に吠える。
「わんわん」
わんこは策があるようだ。
「わかったです。少しの間なら私が皆を守ってみせるです。」
雫はわんこたちを守るように前に立つ。アンフェも続く。
「いくです。「結界」です。続けていくです。「泥沼」「暗闇」」
「~♪~!」
アンフェは『人気者』で少しでも相手の攻撃を自分に向かわせようとしている。
「ぬっ、小癪な真似を。この嵐を止めることなど出来んわ。」
「そんなことやってみなくちゃわからんです。」
そのときわんこの合図が出る。
「いくですよ、全弾投下です。」
雫が持っている全てのボムを投げつける。
「ドゴーーーーン」
凄まじい爆発音。しかし魔人にダメージは無い。
「残念だったな、我を倒せなくて。」
「でも嵐は止んだです。」
「減らず口をた…」
魔人が反論しようとしたときわんこの「影縛り」を使う、これは「影縫い」の強化版で数秒間一切の行動がとれない。さすがの魔人もあの、爆弾を防ぐのに必死でわんこまで気にしていられなかったのである。
「わんわんわん」
「……」
黒騎士を倒したときのようにコンビ技である。
「凄いです。黒い鉄ちゃんいくです。」
黒い鉄ちゃんが魔人に突撃した。
「凄いです鉄ちゃん。カッコいいです鉄ちゃん。」
雫は大興奮で鉄ちゃんを誉める。しかし
「ま、まだだ。まだ我は…」
ギリギリの状態ではあるが魔人は生きていた。しかしもう虫の息である。
「最後に言いたいことはあるです?聞いてやる。」
「ふざけるな、魔人の我が人族なんかに…」
魔人は最期のときまで態度を変えることはなかった。
エルダートレントが進化して生まれた魔人は素材として「エルダーブランチ」が採れた。この枝は禍々しい色をしていたため、すぐに雫はしまった。
「いやー久しぶりにこんなに長く戦ったです。疲れたです。」
第5の街に着いた雫は街を見ることもなくすぐにログアウトした。
第4のフィールドボスの討伐はクラン対抗戦の準備のためデスペナを恐れ火竜討伐を一時的に中断していたプレイヤーたちに衝撃を与えた。特に上位を目指してるクランにとっては、不安要素でしかない。誰もが考えていることは「あのプレイヤーはどのクランに所属しているんだ。」ということであった。その答えは誰も知らない。




