樹妖精の加護
迷いの森に入った時点で雫はわけがわからなくなったのだが、わんこと鉄ちゃんは迷うことなく進んでいったので、雫とアンフェはわんこに掴まって進むことになった。少し進むとわんこたちが止まる。
「どうしたです。目的地についたです?」
と言って雫が前を見るとそこには女の子が倒れていた。
「大丈夫ですか。」
と呼び掛けても返事がない。なので雫が街で作ったポーションをかけてみると、女の子はゆっくりと起き上がった。
「ううーん。えーと何があったんだ...ってわー人間。人間怖い、人間怖いよー。」
女の子はそういって縮こまってしまった。
「うーん、人間怖いっていってるです。ということは私じゃダメです。よしアンフェ頼むです。」
雫たちのなかで一番怖そうじゃないのはアンフェである。アンフェも雫に頼られて嬉しいのかすぐに女の子の方に駆け寄る。アンフェが話しかけるとすぐに打ち解けたようで、何か話をしている。そうしていると警戒しながらも女の子は雫に話しかけてきた。
「初めまして、私は樹妖精のドリーです。よろしくお願いします。」
「どうもです。私はシズです。こっちはわんこと鉄ちゃんです。」
「わんわん」
「.........」
「それで、こちらにはどんなご用で?」
「別に特に何も無いです。少し気になっただけです。」
「そうですか。よかった。昔来た人は私を拐いに来た人だったんです。それから特に人間が怖くて。」
「大変です。まあ私はそんなことする気は無いです。安心するです。」
「はい、ありがとうございます。」
雫とドリーは気が合ったようで雫とドリーの会話は長時間続いた。
「こんなに人と話したの初めてです。ありがとうございました。」
「私も楽しかったです。また来るです。」
「はい!ああそれと、」
ドリーは雫にキスをする。
「私の加護です。貴女に幸福があらんことを。何処かの人間がやっていたことです。また会いましょう。」
そういってドリーは去っていった。
ドリーからもらった加護の効果は、
樹妖精の加護 植物に好かれやすくなる
といったものであった。加護と言ってもそこまでの効果は無いように思えたのだが。雫は大喜びであった。
「やったです。植物と友達になれる機会なんてそうないですよ。ゲームだからこそです。いやードリーもいいものをくれたです。」
戦闘に使えるわけでもないしステータスが上がるわけでもないのだが雫にとっては嬉しいものとなった。
また雫は知らないが加護を与えられるということはそれだけで上位の存在である。まあ雫はそんなことを知ってもドリーへの態度を変えたりはしないだろうが。
色々なクランが設立していくなかで、生産職専門のクランも遂に設立した。そこには優秀な生産職プレイヤーが集まり、様々なプレイヤーからの注文を受注していた。
そのクラン、クラン名を「春の滴」といった。クランの盟主は現在生産職のなかで最高位のプレイヤーであると目されるプレイヤーであった。
「必ず恩返しするんです。」
とは盟主の談である。彼女らの動向がクラン対抗戦の鍵を握るとも言われていた。
このようにどんどんクランが設立していき、着々とクラン対抗戦の準備が進んでいくなかで、全てのクランの注目はやはり雫が何処のクランに所属するかであろう。そこまで警戒していないものもいるが、一度雫と相対した者は揃ってこう言う。「勝てる気がしない。」
見えない斬撃、広範囲攻撃の爆弾。未確認だがドラゴンまで従えていたらしい。そんなのが相手になったらと考えると恐ろしい。そのため各クランが他のクランの動向の探りあいをしている。しかし彼らは知らないのだ。雫の性格を。
クラン対抗戦のお知らせを見た雫は一言。
「クランってのはわからんですが今はイベントより植物と友達になる方が先ですね。」
これにより各クランの行動が無駄骨になることが決定したのだった。




