背教のすすめ
雫たちが『聖国』を後にして向かったのは『妖魔街』。そこに『聖国』攻略のための重要なピースを埋める存在がいた。
「お久しぶりです天邪鬼」
「こんにちは」
「おお、久しぶりじゃねーかシズ嬢にシロ坊」
それが天邪鬼。弱さに誇りを持ち、その弱さ故に強い。そんな妖怪であった。そして天邪鬼を『最弱』足らしめている妖術こそが今回の雫たちの目的であった。
「ふーん。話はわかった。俺の『捻くれ者』をか。これは俺のアイデンティティー。本来なら有無を言わさず門前払いだが、シズ嬢には俺を更なる低みに導いてくれた恩がある。協力してやるよ!」
「それは助かるです。まあお前しか使えないような特別な能力を完全再現できるとは端から思ってねーです。取り敢えず信仰ポイントの反転だけでも出来たら嬉しいですからよろしくです」
天邪鬼の固有妖術『捻くれ者』は設定を1つ反転させる能力。この妖術の強みは反転させる設定を状況によって変化させることができることである。今回はその能力は必要ないため再現の難易度は多少下がるだろう。
『錬神』と『最弱』の共同作業は長時間続くのだった。
そして完成したモノが『背教のすすめ』。消耗品であり使用してから30分間信仰ポイントが反転するという代物であった。また長時間、雫たちのサポートをした結果、天邪鬼の妖気に触れたことでシロが新たな妖術を習得した。
「シロ坊のそれに名前をつけるなら『失墜』ってとこか。『捻くれ者』は強者と弱者を入れ換える妖術だが、それは強者を弱者に貶める妖術だな。使い方には気を付けろよ」
「こーん。りょうかい」
「さて、今回はサービスしたが次はない。これは俺のアイデンティティーに関わるからな。できれば今回の用事で『背教のすすめ』も使いきってくれると助かる」
「まあしょうがないです。じゃあありがとです」
そう言って雫たちは『妖魔街』を立ち去るのだった。
「シロの『失墜』でもアイディアが浮かんだです。『聖国』に行く前に試作してもよいです?」
「…いいとおもうよ。やばすぎるのじゃなければ」
――――――――――
『聖国』に『背教のすすめ』が通用すると仮定して、効果時間が過ぎて信仰ポイントが0に戻ったとき、本来規制されている筈の場所にいるとどうなるのか。それが分かれば何人で侵入するか等も検討できる。とはいえ『背教のすすめ』は全部で10個しかない。複製しない約束なので、合わせて5時間で『絶対神』イウについての情報を見つけたい。実験で1つ使うのはリスクが高いと言える。
「私とわんこで行くのがベストです?」
「そうかな♪」
「しらべものならそうかもね」
「………………」
「鉄ちゃんは『死併せ』要因で待機です。アンフェ、シロは制限されてない施設での情報収集を頼むです。よし、わんこ行くです!」
「わんわん!」
こうして雫とわんこは『背教のすすめ』を使用して『聖国』内部への侵入を試みた。そしてその試みは成功することになる。信仰ポイントが最低値であった雫とわんこが『背教のすすめ』を使用したことで、二人の信仰ポイントが上限値に達したため、宗教上忌むべき存在が、設定上誰よりも徳を積んだ信徒であるという矛盾、バグ的存在が誕生してしまい、『聖国』の住民たちに多大なストレスを与えることとなるのだった。




