錬金術教室
お久しぶりです。
新作を書いてるとこっちを書きたくなるというある意味、好循環により戻って来ました。
雫の目の前には幾つかの素材と2つの指輪が置いてあった。一つは装備すると攻撃力を1.1倍する『パワーリング』。そしてもう一つは
「効果を発動してから3分経つと装備した奴のHPが0になる『破滅の指輪』です」
「ふむ…は? それは呪いのアイテムか何かか?」
「失礼ですね。『パワーリング』は市販品ですけど、『破滅の指輪』は普通に私が作った物です」
「よりにもよってそっちを?」
「何か文句あるです。あまのまたちが私の作業行程を見せろって言ってきたです」
「すいません」
錬金術師としてのPSが段違いに高い。高品質な素材を使用してる。装備品等でDEXを底上げしている。スキル、錬神など彼女が作成するアイテムの性能が常識はずれに高い理由は幾つも考えられるが、それにしても異常なモノが多い。そのため『春の滴』のクランメンバーの錬金術師たちに頼まれたあまのまひとつの主催で、今回の見学会が開催されることとなった。
「まったくです。そもそもあまのまは錬金術師じゃねーですから関係ないです」
「そうだが。折角だからじっくりと見たいんだよ盟主」
「まあいいですけど、静かにしてろです。ここから意外と繊細な部分です」
そう言って作業に戻った雫は、錬成していく。その手際は早く正確である。雫を除けばトップ層の錬金術師である彼女たちから見ても卓越した技術であった。
そして完成したのが『豪傑の代償』である。効果は三分間攻撃力を二倍にするが、効果時間を過ぎるとHPが0になるというピーキー仕様。
「ふむです。やっぱり元のアイテムが弱めですからこんなものですね。まあいいです」
そう呟く雫だが、端から見れば凄い。アイテムの性能自体はリスクと釣り合っているか微妙だが、作成の発想が独特であった。
装備品に長所があれば短所があるのが至極当然のことだが、それを意図的に造り出すという発想は無かったのだ。
「まあ原理は呪いを参考にしてるです。これを応用すれば一つの装備にたくさんの効果を詰め込むとかもできるです。コツは色々とあるですけど」
「も、もっと教えて下さい!」
「お願いします」
「…わかったです」
少女たちの熱に押され、雫は渋々ながら頷くのであった。
そんな様子を外から眺める、あまのまひとつ。彼女が修める鍛冶師も言語化しにくい感覚的な技術というのはあるが、錬金術師の場合、それが顕著であると言われている。更にそのような技術に加え発想力、独創性等が重要であることも雫たちの会話を聞いていればよく分かる。
雫は何てことない工夫として紹介したのだろうが、自分には、製作のために態々リスクしかないアイテムを造ると言う発想がない。他の生産者にも無いだろう。更に言えばそんなリスク品と組み合わせる工程を失敗すれば、使った素材や元の装備が無駄になる可能性がある。折角の貴重な品物を使ってそんなリスクを取ろうという考えにそもそも至らない。
「異常な品物は常識的な方法では生まれぬか。それにしても盟主がそこまで頭を使って製作していたとは、意外だな」
と思うあまのまひとつだったが、後日聞くと面白そうだからとやってみたら成功したことを後で言語化しているのだと知り、盟主らしいと苦笑いするのだった。




