夜と陰 Ⅳ
忙しい忙しいと言ってると疲れるので、
暇ダナー
『陰を抜く。』と言うが早いか陰神はそれを実行する。既に展開していた陰がわんこの身体に纏わり付く。そこから陰が抜き取られていくのをわんこは感じていた。
 
陰神はわんこの身体から自身の陰を取り戻している感覚を味わっていた。何の抵抗も無くするすると抜きだせている事実に、自身の陰をいいように利用された事で傷つけられた自尊心が確かに回復していく。
だからなのか、それとも相手から陰を抜くなんて事をほとんど経験してこなかった故なのか陰神は気が付かない。通常状態でいいように陰を利用されていたのに、そうも簡単に陰を抜き出せる異様さに。陰神は気が付かない。この行動に対してわんこから一切の抵抗が無いことに。
わんこは昔した雫との会話を思い出していた。
「やっぱり時代は『精製』です」
「わん?」
「何か不純物取り除くだけだと思ってたですけど中々奥深いです」
「くぅん?」
「わからんですか? 何というか無駄なのが取り除かれてく快感というかです…まあわんこもいつか分かる時がくるかもです」
あの時はまた変なことを言い出したくらいにしか思っていなかったが、今なら雫が言っていたことが理解できる。今まさにわんこは不純物が除かれていく快感を味わっている。
そして全ての陰が抜かれたとき、わんこの感情は歓喜であった。そして変化は現れる。
「全て還してもらった。これでお前は我の陰への干渉権を失い、あとは…ふふやはりこれまでの異常性は我の陰によるものだったようだな」
「……わん」
陰神の陰を失ったわんこの身体は徐々に変化していき、宿っていた神性も徐々に、徐々に増していく。
「は、はぁ? な、ぜだ。何故我の陰を失って反対に神性が増大していくのだ!」
それはわんこにも分からない。ただわんこは今までよりも強く雫を感じれるようになっていた。それが起因してか自身の内から無尽蔵に力が溢れるような万能感に包まれる。
それが収まると新たなる神の誕生を告げるアナウンスが聞こえてくる。
【遮っていた陰が除かれ真の姿に生まれ変わりました。『夜狼神』に神化しました】
 
わんこが称号だけでなく、種族としても神となった。
とは言え陰を抜かれ、陰神への対抗手段を一つ失った事実は変わらない。力は洗練されたように感じられ神性も増大したが、陰神を上回る程ではない。現状、自分の有利は変わらないと陰神自身は考えていた。しかしわんこは動揺も狼狽もせず、ただ『夜』を感じていた。
「どこまでも異質な…だがお前の手札ももう切れただろう! 我の陰に呑み込まれて沈め」
「くぅん」
ここは陰神の神域である。陰神が常に本領を発揮できるように真夜中のフィールド。そう陰神に適したフィールドであることに違いは無いが、陰神が支配できるのはこのフィールドに在る陰。一方で『夜神』であるわんこが支配できるのはこのフィールドの『夜』。つまりフィールド全てが支配下にあることを意味する。
この下僕である月狼を完全に支配するためだけに、神域を月夜にした陰神。これが彼を追い詰めることとなる。
 




