夜と陰 Ⅰ
各国が躍起になって行っている神の国、神域探しだがその中にはわんこの姿もあった。
しかし主である雫は今回の神域騒動にそれほど興味を示してはいなかった。そこで得られるらしい神器には興味があるが、態々神域を探し出してそこに押し掛けようと迄は考えていなかった。そのためわんこは個人的な感情で神域探しを行っていた。
「くぅん?」
「…いない♪」
「こっちもだよわんにい」
それに協力するのはアンフェとシロ。天使と巫女、神域探しにもってこいの人選だ。ここからわんこの本気具合が伝わってくる。
わんこたちが今いるのは第1の街近郊のフィールド『始まりの草原』。ここにわんこはお目当ての神域があるのではと当たりを付けていた。
「それにしても、いがいだな」
「わふ?」
「わこ しんいき♪ きょうみ いがい♭」
「そうそう。あるじがきょうみないのにさ」
「わんわん!」
「わはは、べつにいいと……!」
と楽しく談笑しているところで、シロの探知に引っ掛かるモノがあった。それを聞いてアンフェもそれを感じる。
「…あった♪ わこ にてる♪」
「わんわん!」
神域の入場条件を満たしていないためか何も視えないが、そこに感じられるのは確かに神の気配。しかもそれはわんこから発せられる気配と酷似していた。そう、わんこが探していた神域は陰神の神域であった。
わんこには雫と出会う以前の記憶がない。だがそのことについて不満はなく、深く考えることはなかった。ただ1つ、雫が疑問に思っている事があった。それは雫と出会った時、なぜわんこは衰弱し倒れていたという事であった。
わんこは雫と出会ったばかりの子狼の頃から強かった。雫という置物を守りながらフィールドのモンスターを狩れるほどに。そんなわんこが倒れていたという状況を雫は不思議がっていた。
元々わんこは陰神の御使いと呼ばれる珍しい種族。普通のフィールドにぽつんと倒れているのがおかしいと言えばおかしいのかもしれない。そのため何処か別のフィールドから『始まりの草原』に捨てられたのではと考えていた。
陰神の御使いの子供を捨てる者。そんな奴は陰神かそれに類する者たちではないか。そんな時に神域の存在が公表されたため、ここに当たりを付けたという訳である。
「じゃあわんにいがんばってね」
「ぶった おせ♪」
「わん!」
別に捨てられたからと言って恨む思いも特に無い。雫と出会えたことを思えば感謝すらする。では何故わんこが陰神に会いたいかと言えば単純な理由である。進化を繰り返し漸く雫の御使いとなれたと言うのに、未だに陰神の御使い扱いを受けることがある。それはわんこが異端なため仕方がないことなのだが、納得はできない。
であるならどうすれば良いか。雫が陰神よりも上位の存在になれば良いのではない。つまり陰神をぶったおし、陰神の評価を下げれば良いのではと考えたのだった。
「わんわん!」
残念ながら神域の入口が見えないと言うことは入場資格が無いという事である。しかしそこに入口があることさえ分かってしまえば侵入する方法はある。何せわんこも『夜神』。神なのだから。
わんこは神域の入口と思われる場所に影を生み出しそこに入っていった。影を利用して神域に侵入したのだろう。それをアンフェとシロは見送るのだった。
「わんにいってきほんかんぺきなんだけど…」
「バカ♪」
「あるじバカだよね…」
「わたし たちも♪」
「…まあね」




