神国と褒美
神々の住まう国。人族側に所属しているプレイヤーたちは、石碑に書かれたこの文章を見てすぐにNPCへの聞き込みや隠しエリアへの探索を始めた。今のところ、国が出現したという情報は出ていない。しかし先日の『人魔大戦』において焦燥感に駆られた彼らは、たとえ石碑に書かれただけの曖昧な情報でも、それにすがってしまうのだ。
更には、この神々の住まう国についての情報を一番有しているのは現状、魔国所属のプレイヤーだという事実は皮肉以外の何物でもない。
現魔王であるサタンに、神々の住まう国についての話をしたところ、彼は常識でも語るように話し始める。
「神々の住まう国、通称『神国』はここ魔国や人族が住まう三国とは趣が違う」
「というとです?」
「『神国』とは、とある神とその配下の従属神が住むフィールド。神域の集合体だ」
「神域です?」
「上位神が造り出す空間。神々の家とでもイメージしてくれればいい」
「ふむふむです」
「そして他の国と『神国』が異なるのは家々を繋ぐ街道が無いという事だ。神域1つに対して入り口は1つ。基本的に神域間の移動は出来ない」
「つまりです。『神国』は神様専用のマンションみたいなモノですか」
雫は一人で納得する。
「それじゃあです。入り口の場所はわかってるです?」
「魔国にある入り口ならば数ヶ所ほど把握しているが、現在は全て閉じられている。わかっていることは『神域』の入場条件が各『神域』ごとに別途で定められているという事くらいだ。私も昔神域を探したことがあるが条件を満たしたモノは2つほどだった。そこもそこに住む神に闘いを挑み倒したら、次から出入り禁止になってしまったし」
「何か色々複雑です。まあ結局、今回現れた神域は魔国側の私には関係無いです?」
「…条件次第だろう。神域の主が親人主義や反魔族の神であれば、条件に魔国所属で無いことを入れているかもしれん。しかしそこまで極端じゃない神なら案外、シズ殿でも入れる神域はあるかもしれない」
「そんなもんです? まあ確かに人族、人族言ってるですけど、プレイヤーに純粋な人族って少ないらしいですし。それなら暇潰しに探すのもありかもです」
小枝や煉歌から聞いた話では、そもそも種族で人族を選んだ者は3分の1ほど。しかもその中の多くが既に種族クエストなどで別の種族に進化している。人族であることが入場条件でたる神域は少ないかもしれない。
そしてサタンからの情報通りならば、魔国所属プレイヤーでも条件を満たす神域が三国内に存在する可能性は否定できないのだった。
この情報は雫から『神の雫』メンバーに伝わり、そこから信を置ける一部の魔国所属クランへと伝わり、『神国』探しに魔国プレイヤーも参加し始めるのであった。
煉歌たちも出発しようとしていたのだが、あまのまひとつに止められる。
「という重要情報をくらますからさらっと伝えられたから、これから三国内の探索を始めたいんだけど…」
「まあまて。それに探索にも関係あることだ。盟主が先日の大戦の褒美として我ら専用に幾つか造ってくれたモノがある」
「いつもは興味があるモノしか造らないくらますから?」
「あたしたち専用かー」
「どんなの?」
雫からの珍しいサプライズにざわつく一同。
「そう催促せんでも渡す。まずはテディベアには特注傀儡『刹那』と機械人形部隊『殺戮連隊』を」
「おお!」
「『刹那』は扱いが難しいらしいが、性能はピカイチとのことだ。『殺戮連隊』は名前の通り攻撃特化だからソロプレイのときに使うようにとのことだ」
「了解!」
テディベアは傀儡を受け取るや否や試運転にいってしまった。
「はぁーまったく。次はパフェまふか」
「なになに?」
「お前は盟主にモンスターたちの進化について相談してたろう?」
「うん。今はめっちゃかわいいあの子たちも進化先が厳ついのが多くて…」
「それを解決するためのアイテム『美への追求』だ。本来の効果は与えたプレイヤー、モンスターの魅力の上昇だが、副次効果で進化や成長先が可愛さや美しさ優先で決定するらしい」
「ほんと! すぐあの子たちに上げてくるよ!」
「お前もか!」
こうして残ったのはあまのまひとつと煉歌のみになった。
「最後は私?」
「そうだな。煉歌にはこれ。『響奏の弦楽器』と『天音の弓』『悪音の弓』だ」
「バイオリン1つに弓が2つ?」
「『響奏の弦楽器』にはスキル『心音』が『天音の弓』にはスキル『絶対音感』が付与されている」
「…改めて凄い。ユニークスキルを除いたら音系術者の最高峰スキルだよその2つ。…ってことは『悪音の弓』も凄いのかな?」
「『悪音の弓』に付与されてるスキルは『絶対音痴』」
「…え? も、もう一回言ってくれない」
「『悪音の弓』に付与されてるのは『絶対音痴』だそうだ」
『悪音の弓』に付与されたあんまりな名前のスキルに開いた口が塞がらない煉歌であった。




