森精のその後
遅くなりました。
とある昼下がり、『宝物庫』で手に入れた機械人形の修理、改造をしている雫の元にアンフェとシロがやって来た。
「『宝物庫』にです? まあ別に使う予定も無いですね。…あ、でも少し手を加えたい箇所があるですからそれが終わってからでいいです?」
「わかった♪」
「だいじょーぶだよあるじ」
『宝物庫』は高価で貴重な物がしまってあったにしては、内部に罠などはほとんど設置されていなかった。前までの専用の鍵を使わねば出入口が出現しない状態ならそれでも良いが、出入口も解放するならば今の状況では不安が残る。そのため雫は少し手を加えようと考えた。
そんな事を考えていたからだろう。ふと孤児院を見渡してみると少し前に比べて遥かに立派になった『のこ聖樹』の存在が目に入った。
「そういえばです。前々から思ってたですけどあれって何であんなに大きくなってるです? 土がいいからです?」
「うーん♭ いのり♪」
「またでたです祈り。イマイチよく分からん概念です。まあいいですけど。でも何か『人魔大戦』終わりくらいから急に成長してる気がするです」
「このごろ、あつめやすいんだよあるじ」
「へー、そうなんですか」
魔国で『魔神』信仰を広めるべく活躍するアンフェたちだが、彼女たちは魔国でのみ活動している訳ではない。雫たちの活動拠点である孤児院がある王国でも日々活動に取り組んでいる。
とはいえ王国では『魔神』の名前が広まっておらず、『魔神』によって信仰を集めるには時間が掛かる。そのため王国で認知度の高い『聖樹』。そこから派生して生まれた『のこ聖樹』で祈りを集め、間接的にその所有者である雫にも祈りが集まるように仕向けている。
そんな活動の成果は如実に実を結び始めていた。とは言えそれはアンフェたちの努力だけが要因では無かった。
「僕の元本体『聖樹』の信仰がガタ落ちしてるからね」
ふと元『聖樹』の化身で今は『のこ聖樹』の化身であるせーくんが話しかけてきた。
「そうなんです?」
「煉歌くんたちやのこちゃんずから聞いた話を統合するとね。『聖樹』はエルフたちに与えていた加護すら回収してるようだからね」
『聖樹』の加護は、森と共に生きる上で非常に有益なモノであった。しかし今では、多くのエルフがその加護を失ってしまっていた。それにより『聖樹』の信仰は更に揺らいだという。
更に悪いことは重なる。『人魔大戦』の敗北で戦力増強が急務な王国所属のプレイヤーたちは、そんなゴタゴタしている『森精の街』に寄り付かなくなってしまったのだ。
「『聖樹』はどうなるです? どんどん弱くなるです?」
「うーん。昔からの信心深いエルフたちがいるから大丈夫だと思うよ。逆に利益目的のエルフどもを一掃できるチャンスかもね。『聖樹』は祈りの深さに対して、色々と与え過ぎてたからね」
「そんなもんです?」
「少し信仰が揺らいだ程度で位階が下がるようじゃね…そういう点は僕たちにも言えることだね。無理なく着実に信仰を広めていこう」
「そうですね?」
「えー♪」
「めんどい」
「…シズくんは兎も角、なぜ他2人が不満げ何だ!」
せーくんの叫び声が孤児院に響き渡るのだった。




