ふたりきり Ⅳ
「頑張れです」
「わんわん!」
「排除シマス。排除シマス」
最深部にたどり着いた雫たちを待ち構えていたのは、この施設のボス。ゴーレムの大型種である。通常ならそこまで強い相手ではない。更に他の人形と同様、雫には手を出して来ないようでわんこが本気を出せる状況は揃っている。
しかし腐ってもボスである。他のモンスターとはひと味違う。ゴーレムは自身の背後にある壁を触る。するとそこに描かれていた3つの魔法陣のうち1つが光る。
「魔宝ヲ選択『巨腕召喚』」
「わん!」
魔法陣の光に呼応したように空中に現れた大きな魔法陣。そこから文字通り巨腕が生み出され、わんこに襲い掛かってくる。
わんこは少し驚きつつも余裕をもって回避する。その動きを予想していたのかゴーレムは、再び壁に触れる。1つ目の魔法陣の光が止み、2つ目の魔法陣が光る。
『武宝ヲ選択』
「くぅん?」
「ターゲットノ捕捉ヲ完了『刹那』」
「わ―――」
雫にはゴーレムの動きが見えなかった。気が付くとわんこが立っていた筈の場所にゴーレムが立っていて、わんこは
「…くぅん」
部屋の壁まで吹き飛ばされていた。ギリギリで影によるガードが間に合ったのか、ダメージこそ無いがわんこは衝撃を受けているようだ。そんな様子を端から見ていた雫はとある敵を思い出していた。
「人形で、見た目にそぐわないスキルを使ってくるです。なんだかあれに似てるです」
見た目や戦闘スタイルが雫とわんこが戦った最初のボスであり、鉄ちゃんを仲間にする切欠となる『知識の守護者』に類似していた。
『知識の守護者』は守っていた知識である『スキル』を使いながら戦っていた。このゴーレムも似た感じなのかもしれない。
「真ん中の魔法陣が光ってるときは、他のは光が止んでたです。今のところは同時に使ってこないです」
『巨腕召喚』は攻撃力は高そうだが回避は余裕であるため脅威ではない。『刹那』は、わんこでもギリギリ防御できるかできないか程の超スピードでの移動を可能とするスキルである。とは言え直線的な移動しかできないようであり、これ単体ならばこれもそこまで脅威ではない。
しかし最後の宝。聖宝『リサイクル』が組合わさると面倒この上ない。『リサイクル』はゴーレムなど無機物版の『再生』スキルのようであり、ダメージを与えても与えても元通りにされてしまう。『刹那』でジワジワと追い込み、ダメージを受けたら『刹那』で壁まで戻り、『リサイクル』で回復、『巨腕召喚』で牽制。ゴーレム自体のステータス等も相まってかなり厄介なコンボと化していた。
そんな感じでサイクル戦闘を強いられ、だいぶ苦戦しているように見えたわんこ。観戦ムードだった雫も、そろそろボムの出番かと肩を回し始める。しかし
「わん!」
「そうです? 中々苦戦してるように見えたですけど…」
雫の参戦をわんこは遠慮する。そんなわんこの様子に首を傾げる雫だったが、『リサイクル』で回復したゴーレムをよくよく見たことでその謎が解ける。
「最初に比べて迫力が減ったですね」
「わん!」
『リサイクル』により表面的には再生を繰り返していたゴーレム。しかし所詮はリサイクル。新品のようになっても新品になるわけではない。何度も繰り返しすればいずれガタがくる。
わんこは『リサイクル』前と後の微妙な変化に最初から気が付いていたのだった。
「武宝ヲ選択」
「くぅん」
「『せつ――」
そんな状態のゴーレムは、超高速での移動に耐えられ無かったようで、『刹那』を使用した瞬間に崩壊してしまうのだった。
ゴーレムが崩壊した直後、壁に描かれた3つの魔法陣の下に門が出現し、それと同時に文字が浮かび上がる。
【開けられる門は1つのみ。選択が成されたとき残りの門は永久に閉ざされるだろう】
ここも『知識の守護者』のときと同じである。1つしかスキルが手に入らない仕組みなのだろう。永久にと書いてあるということは、もしかしたら選択しなかったスキルを得る機会は無いのかもしれない。ここは慎重に選ばなければいけない場面である。しかし雫は壁の文字を見ながら静かに微笑む。
「なるほどです。門を開けたら駄目なんですね」




