ふたりきり Ⅱ
旧魔都で聞き込みをした結果、『宝物庫』が『魔王城』に無いという情報は本当のようであった。何でも、元魔族王のサタンが入手した宝などを保管する倉庫があるという噂を、何人かの魔族が聞いたことあると教えてくれた。
「何かみんな簡単に教えてくれた気がするです。気のせいです?」
「わんわん!」
「『魔神』がなんです? まあいいです。周りが優しいのはいいことです」
魔族への影響力が上昇する『魔神』の称号だが、雫の周りにいる魔族は、称号の効果がほとんど無い四天王、魔王級の猛者かある意味で効果が無い信者ばかりである。そのため雫は『魔神』の効果を失念しているのだった。
それはそうと、『宝物庫』が別の場所にあるならば情報収集をしなければならない。とはいえせっかくのふたりきりである。いつものように『地下街』を頼るのも味気無い。そう考えた雫とわんこはもう少し旧魔都で聞き込みを続けることにした。
するとたまたま、偶然立ち寄った爆発物専門店『ボマー』で有力な情報を手に入れた。
「『宝物庫』って名前かどうかは分からんが、魔王様のために造られた遊び場の名前がそんな感じだったと思うな。何せ昔のことだからしっかりとは覚えてないが」
「そうですか。それでも助かったです。まあ取り敢えずこれとそれとあれ、あるだけ貰おうです」
「お、お客さん。分かってるね」
「くぅん」
結局、情報収集が完了した後も『ボマー』店主との爆発物談義に花が咲き、最終的に数十種類の爆薬を買い占めるのであった。
『ボマー』で多少時間を消費したが、雫は大満足であった。雫だけだが。
「わんわん!」
「私も色々と造るですけど、あそこまで細かくは調整しないです。有意義な時間だったです」
「わん!」
「そんなこと無いです! 例えばこれはです…」
雫が造るボムは威力過多で、微妙な調整がされた爆薬など不要だと素人であるわんこは思うのだが、そこはボム職人雫。細かい拘りがあるようで、ボムを取り出し説明を始める。
雫を上に乗せた状態でボムの説明をしっかりと聞き、出現してくるモンスターを、軽々しく屠っていくわんこ。いくら先日入手した『神夜魔法』があるとはいえ、一般プレイヤーでは生存も難しいフィールドでこの振る舞い。これが許されるのは雫たちくらいかもしれない。
時間を忘れるほどの熱弁を終えた雫。前を向くと、いつの間にか目の前にそびえ立つ建造物。
情報が正しければこれが『宝物庫』なのだろう。ただ一点、問題があった。それはどこから見ても入り口が見当たらない点であった。
「これは設計ミスです?」
「くぅん」
「折角、鍵があるのに扉が無いです。鍵が…」
雫が鍵を取り出し、建物に向ける。すると地響きが聞こえ、地面が揺れ出す。
雫がビックリしつつわんこにしがみつく。すると
「わん!」
「なんです?」
「わんわん!」
わんこが言うように建物をみる。すると先ほどまで無かった筈の入り口が表れたのだ。
「よ、よくわからんですけど結果オーライです」
「わん」
何故か空いた入り口から侵入するのだった。
アイテムとして鍵を使う経験の無い雫




