ふたりきり Ⅰ
魔国が追加されて以降、四天王との戦闘や『人魔大戦』、魔族王との戦いの準備のため、いつも以上にわんこたちと別行動が目立っていた雫。
そんな彼女は、各激戦で消費したアイテムもあらかた補充が完了したこともあり、久しぶりに皆でどこか出掛けようと提案する。しかし
「………」
「ピィーー!」
「鉄ちゃんとラス、小鉄たちはダメなんですか」
「ごめん♪」
「『地下街』によばれてるんだ」
「アンフェとシロもですか。残念です」
残念ながら各々予定があるらしく断られてしまった。昔に比べて鉄ちゃんたちの行動範囲が広まったせいか、こういうことは起こりうるが少し悲しい。
「わんわん!」
「おお、わんこは大丈夫です? よしじゃあ出掛けようです!」
ただわんこだけはちょうど良く予定が空いていたため、2人でお出掛けすることにした。
どこに行くか悩んでいると、わんこがとあるモノを雫に差し出した。それは鍵であった。
「何ですそれ?」
「わんわん!」
「へー、『宝物庫の鍵』ですか。…どこのです?」
「くぅん」
先日、『四道』にて『戦争王』ディアボロスと戦ったわんこたちが、報酬として受け取った鍵だ。それを考えれば『宝物庫』は、魔族王サタンによってボロボロに壊され、復興途中で遷都した旧魔都に建てられた城の中にあるように思えた。
とは言え、ボロボロなのは城も同様である。城の中に『宝物庫』があるならば、ガラクタしか手に入らないかもしれない。
「まあ問題ないです。そういう変なの見るのも楽しいです」
「わん!」
「それじゃ行くです」
という事で、旧魔都に向かうことになった。
遷都した影響で旧魔都の活気は弱まっているかと思っていたのだが、特に影響は無く着々と復興は進んでいる様子だ。しかし見渡す限り魔族しかいない。煉歌たちの話では、入国の難易度が下がった影響で魔国でもプレイヤーを見れると聞いていた雫は首を傾げる。
「変わった感じはしないですね」
プレイヤーが魔国でも活動が可能になったことは事実である。しかしそれは雫が『魔族王の復活』の攻略に失敗する前の話であり、その後は、サタンに集められていた強めの魔族たちが各地に帰還しだした。そのため難易度が低い時に入国したプレイヤーは、『魔印』なども持たないため、街内での好戦的な魔族との戦闘に晒されるようになり、1人また1人と魔国を去っていったのだった。
「まあいいです。取り敢えず城に…てどれが城です?」
「…わんわ―――」
「あ、あのー」
「ん?」
前は立派に建っていた『魔王城』だが、見渡す限りその面影は確認できない。昔のことのため何処に建っていたかの記憶も雫にはない。
わんこは一応、覚えてはいたため案内しようとするが、それに割り込む形で声を掛けられる。その声の主は魔族であった。当然ではあるが。
「…なんです?」
「い、いえ。何かお困りのようだったので」
「…そうです? 今、『魔王城』の『宝物庫』に行く気だったですが、『魔王城』が何処だったか分からんくなったです」
「そ、そうだったんですか。『魔王城』の跡地ならこの道を真っ直ぐ行って、二つ目の角を曲がって進めば着きます」
「そうです? どうもです」
「い、いえいえ。とんでもないです。で、ですが…」
親切な魔族が道を教えてくれたので、素直にお礼を言って立ち去ろうとする。しかし魔族は更に『宝物庫』についても情報を教えてくれる。
「わ、私、少し前まで『魔王城』で働いていましたが『宝物庫』なんてありませんでしたよ」
「ほんとです? …どうもです」
それを聞いた雫は、もう一度礼を言いとっとと立ち去るのだった。
「さてです。あれがホントなら探すしかないです。意外に長引きそうです」
「わんわん! …わふっ?」
「楽しいですよ。久しぶりにわんことお出掛けで、中々面白そうなイベントな予感もしてるです。ただ」
「わん?」
「…さっきの魔族。なんで終始どもってるです? 何か凄い目で睨まれた気もするですし」
「…くぅん」
「何だが注目されてる気もするです。まあこれは気のせいだと思うですが」
人混みが苦手な雫とすると、被害妄想かもしれないが今日の魔国は圧迫感があった。
と言うのも、旧とは言え魔都には強めの魔族が多く戻ってきていた。つまりあまり一般的には知られていない『魔神』の姿を知る魔族が、都市内にチラホラ存在している。
畏怖であり信仰であり、注目は必至なのであった。
先ほど見てみたら累計のPV数?が1千万を越えていました。書き始めてからおよそ4年経っているので凄いかと言われればそうでも無いのですが、
こんな主要キャラの2分の1が人語を喋らない作品を多くの人が見てくださったということはお礼しなければと思い、書かせていただきました。
皆様、どうもありがとうございます。
全員が人語で会話することはこれから先も無いとは思いますが、これからも読んでくだされば幸いです。




