現実の日常 Ⅱ
この一年、いつにも増して会う機会の無かった母親との晩御飯を済ませ、食後の談笑に花が咲く。
「錬金術であんなに多くのアイテムが造れるなんておかしいって頭抱えてたわ」
「そうです? テキトーにやれば何とかなるですよ。あとは慣れと勢いです。それにしても母さんの友達も錬金術師を選んだんです?」
「え、まあ、そういうことになるわね」
「です? よく分からんですけど、錬金術について習うなら『亜人の街』がおすすめです。一度行ってみるといいです」
「そ、そうね。伝えておくわ」
自分がゲームの運営に関わっている事を秘密にするように、夫から厳命されている彼女。ルールを破ることを厭わない彼女だが、今回ばかりは夫の悲しそうな顔での説教を何度も受けたため、守っているのだった。
とは言え隠し事は得意ではないのですぐにボロが出る。これはまずいと話を変える。
「それにしても、雫がそんなにゲームにハマるなんて思わなかったわ。たまーに帰ってもゲームやってるから会えなかったもの。昔は本ばっかり読んでたのに」
「本は今でも読むです。まあ私もわんこたちと会わなかったら続けてたか分からんですから、ラッキーだったと思うです」
雫が『VVO』にハマる切っ掛けはわんこであった。今はそれだけではないが最初の方は、続けるモチベーションは、ゲーム内でわんこが待っているからというのが大きな割合を占めていた。そうしてログインが習慣化し色々な発見を経て今の雫が出来上がっているのだ。
「そういえばです。何で母さんだけ帰ってきてるです?」
「何でって、私が帰ってきちゃ悪いかしら?」
「わる…くはねーです。けど昔父さんが、母さんはああ見えて仕事熱心だから、僕が連れ帰らないと家にも帰らないって言ってたです。私も母さんだけに会うのは久しいですし」
「ああ見えては余計だけど、そうね。本当は私の仕事が一段落したら一旦帰るつもりだったけど、そうしたら正人さんの仕事が大忙しになっちゃったのよ」
やれやれと言ったふう肩を竦める母を、じっと見つめる雫。
「………」
「なにかしら?」
「僕の仕事は澪の考えたアイデアを実行させること。これも父さんが言ってたです。父さんの仕事が忙しいってことは母さんのせいじゃないです?」
「そんなことないわ…」
「…まあいいです」
特に父に会いたい訳でもない雫に母を責める意図は無いため、問い詰めたりはしない。それはそれで夫が憐れに思えた澪は、フォローする。
「今やってる仕事が終わったらまた帰ってくるわ。それに今の仕事が成功したら雫、かなり喜ぶと思うわ」
「へーです。じゃあ楽しみにしてるです。じゃあそろそろ私は宿題やるです」
「興味なしなのね」
仕事の話には興味なしの雫は席を立ち、自分の部屋に行ってしまう。そんな雫を見送りつつ、澪はボソッと呟く
「まあこれが実行されるかは、あなたの頑張り次第なんだけどね。雫」




