屍術師の悲哀 Ⅳ
アンデッドという相性が良い相手ということもあるが、それ以上に成長したアンフェとシロの活躍が光り、気がつくと『エレボスへの旧街道』のボスフィールドまでたどり着いていた。そこに居たのは一匹のスケルトンであった。
「骨です?」
「ほね♪」
「ほねだね」
「あ、あれはスケルトンっていうモンスターで。でもボスがただのスケルトン?」
道中に出現したモンスターよりも貧弱そうな見た目。ボスらしさは微塵も無い。
そんな疑惑の視線を浴びたスケルトンは、そんな視線をかき消すように笑い出す。
「コッコッコッ! 我ヲソノ辺ノスケルトント一緒ニサレテハ困ル」
「普通じゃないです?」
「ソウ。我コソハ、最強ニシテ………?」
自己紹介を始めたスケルトンだったが、途中でフリーズする。
「どうしたです?」
「暫シ待テ。フムフム。…我コソハ、最初ニシテ最強ノ存在。ハーデス様一ノ従者『骨郎』ダ!」
「名乗りの口上を忘れてたですか。それにしても骨だから『骨郎』ですか。安直ですね」
「え♭」
子狼にわんこ、鉄竜に鉄ちゃんと名付けた人とは思えない台詞に、アンフェも素で驚いてしまう。
雫の名付けは直感的に行う派のため、自覚が無いのだろう。
「アイもそう思うです? …って、おいアイ、しっかりしろです」
名付けには一家言あるアイに話を振るが、反応は返ってこない。アイは骨郎の説明を受けて自分の世界にトリップしていたのだった。
「原点にして頂点。しかもアンデッド内で最弱種のスケルトンというのもポイント高め…」
「ソロソロ、始メヨウ」
「まあいいです。放っておくです」
そんなアイを取り残し、戦闘が始まる。
骨郎は、普通のスケルトンとは異なり聖属性に耐性があるのか、アンフェの『神聖魔法』やシロの『仙術』を込めた殴打を食らっても、動じずに反撃してくる。
確かに強い。しかしそれは通常モンスターと比べての話である。支援型のアンフェとシロ相手に善戦では、ボスモンスターとしては平均以下だろう。
「弱いです?」
「フム、私ガ侮ラレレバ、ハーデス様マデ侮ラレカネンナ。ナラバ少シ本気ヲ出ソウ。『万骨創造』」
『万物創造』ならぬ『万骨創造』。これはその名の通り有りとあらゆる骨を創造するスキル。フィールドの至るところから、骨が湧き出て組み合わさっていく。
「あれは『骨巨人/スケルトン・ジャイアント』ですね。リッチ等と並ぶ上位種です。でもスケルトンがスケルトン・ジャイアントを召喚。それも3体…」
「おいアイ、復活してそうそうどっか行くなです。取り敢えずあのデカいのは私が倒すですから、お前はアンフェたちに加勢してくれです」
「わかりました!」
創造系のスキルは単純に厄介である。少し本気を出すの言葉通り、モンスターを召喚しているくらいは易しいが、最終的に物量で押し切って来た場合、被害覚悟で応戦する必要がある。
そのため相手が本気になる前に叩くのが得策なのだ。
「図体がデカイ奴なんてただの的です。単体ボムの性能テストの被験者に使ってやるです」
雫はそう言って、ボムを取り出す。基本的にわんこと鉄ちゃんがいないと置物と化す雫。その一番の理由は、雫の主攻撃がフィールドほぼ全体攻撃であるボムであるためである。
攻撃する度に仲間にも被害が生じる扱い難さ。それをわんこの全体回避か、鉄ちゃんの全体防御で補っているのが現状なのだ。
今まではそれでも良かった。雫とわんこたちが離れることが想定されていなかったこれまでは。ただ『死併せ』を習得できた今、このままではいけないのだ。
「とくと味わうといいです!」
これまで戦闘に参加してない雫の、ボムの残数は充分なのであった。
雫とボムの歴史
もともと単体攻撃の『爆発石』、『爆弾』であったが、攻撃を食らわせて先に爆発させるという弱点があった。
技術の向上により範囲攻撃でも並みの単体攻撃以上の攻撃を叩き出せるようになり、範囲攻撃の『ボム』が主流に。その分わんこたちの負担が増加。
単体攻撃への見直しが始まる→今ここ




