屍術師の悲哀 Ⅰ
新章に入る前に、5話くらいの小話を挟みます。
話は、雫がいつものように孤児院でアイテム造りに勤しんでいるとき、アイのお願いから始まる。
「種族進化クエストです? それってアイはもうやって無かったです? 確か…何かの種族です」
「混血吸血鬼ですよ。忘れないでください」
「そんな感じです。それで、もう進化してるですよね?」
「それが魔国を彷徨いてたら、とあるクエストを見つけまして」
そのクエストと言うのが今回、アイが持ってきた種族進化クエスト『屍術師の悲哀』らしい。
クエストの詳細はまだ不明な点が多いが、このクエストを受注する過程で得た情報によると、この屍術師とやらが、混血種の吸血鬼を純血以上の存在、延いてはそれ以上にも押し上げる禁術を生み出したと言うのだ。
ただ、その後色々と手掛かりを探したが見つからず、魔国攻略度が一番高い雫に相談に来たのだった。
「ふーんです。確かに種族どうこうは私にもできん分野です」
「もしかしたらそういったスキルが手に入るかもしれませんし。ほら、吸血鬼はアンデッドを操るのは鉄板ですし」
吸血鬼について熱く語り始めるアイに冷めた目線を浴びせる雫。
「いや知らんですけど…。そもそも屍術師ってのがよく分からんです。何ですか?」
「屍術師は、ネクロマンサーとか死霊術師って意味でして…」
「それなら知ってるです。確かナルタルがそんな感じの職業だったです」
「『死術王』ナルタルですね。私も二つ名ほしいな…」
「取り敢えずナルタルに聞いてみるです」
ということで、雫たちはナルタルが治めている『ニルヘイム』へと向かった。
ナルタルへの恐怖からか活気の無い街であった『ニルヘイム』。しかし恐怖の対象であったナルタルが雫に負け『破壊王』ソドムに負けと、連敗したことでその恐怖が薄れ、結果として街は活気付いていた。
そんな敏腕領主っぷりを発揮したナルタルに『屍術師』について尋ねると、返ってきたのは冷たい返事であった。
「知らないな。吸血鬼でも無い奴が吸血鬼を強化、進化させる?そんな俺様でもできない術師は存在しない。存在しない奴を俺様が知ってる訳ねーだろ?」
「噂があるですからいるかもしれんですのに、使えん奴です。『四道』のときもダメダメだったですし」
「何だと! チッ、…少し待ってろ!」
語気を強めながらその場を離れたナルタルは、古ぼけた書物を持って戻ってきた。
「吸血鬼を強化するといえば死霊術をかなり極めなきゃできんだろう。言うならば俺様が死霊の霊、魂について極めた存在とすれば、そいつは死について極めたんだろう。本当にそんな奴がいるのかは知らんが、もしいるならこの中の誰かだろう」
そう言って古ぼけた書物を雫に手渡してくる。この書物は『死霊術』についての研究がびっしりと書き記されていた。その研究を行った者の名前と共に。
「この中にいるです?」
「さあな。噂の『屍術師』は俺様には劣るが天才的な『死霊術師』だ。そんなやつは今の魔国にはいない。とすれば過去にいたくらいだろ? しかもそいつはアンデッド研究をしてる」
「なるほどです?」
「わからないなら、連れてきた女にでも聞けよ。じゃあな」
雫との会話を打ち切り、ナルタルは行ってしまった。あれでも四天王として、『ニルヘイム』の領主としてやることが多いのだ。
取り敢えず情報を得た雫たちは、書物に載っている名前の人物たちの消息を追うため、魔国の情報を集められる場所へと向かうのだった。
王国編、魔国編はそこが活動場所だったんですが、次章は活動場所がこれまでと変わらない予定なので、章の名前をどうするかお悩み中。




