再現し続ける罠
雫が仕込んでおいた茸によって、スキルが取り消されたのに惰性で融合を続けている小鉄たち。そのお陰で鉄ちゃんは幻鐵龍という超強化状態なのをいいことに、一方的に殴り続けることに成功していた。
しかし鉄ちゃんの肩に生えている『惰性のこ』にも制限時間は存在する。そのためその間にサタンを倒すべく、先ほどまで休憩していたわんこも加勢し、攻め続ける。
「むず かし♪」
「私は目でも追えんです。それよりアンフェにはやって欲しいことがあるです」
わんこたちの全力戦闘には、『虚幻』を覚えたてのアンフェが加勢するには難易度が高かったようだ。そんなアンフェに雫は別の頼み事をする。
「…って感じです。できるです?」
「だい じょぶ♪」
「任せたです」
サタンと戦うにあたって、闇雲に援護をするのは逆効果である。相手のストック残量を考えて、威力を調整しなければサタンを強化する結果に終わる。そのため火力の調節ができないラスや調節をする気のない雫は、サタンと戦うのに適していない。そのため戦闘はわんこと鉄ちゃんに任せ、他のメンバーは、スキルを使わずのサポートに切り替えるのだった。
最強の魔族を相手に2人で圧倒しているわんこたちが凄いのか、わんこと鉄ちゃん、2人の全力を以ってしても倒し切れないサタンが凄いのか。それは分からないが、着実に被弾は増えダメージが蓄積していくサタン。しかし『幻鐵龍化』を再現できず、無効化も叶わなかった瞬間から、時間稼ぎに徹したのが功を奏したのか、もう少しで押しきられる、というところで『惰性のこ』が『精力のこ』に変化し、小鉄たちの融合が解除された。
「はは、何とかなったね!」
「………」
「わんわん」
スキルの補助無しに幻鐵龍化を使っていた反動はそれなりに大きかったのか、鉄ちゃんの動きはガクッと悪くなる。
しかし、サタンも猛攻を凌いだとはいえ、HPは残り僅かで、有力なストックを多く消費してしまっており、後は元気が残っているわんこだけでも勝てそうな状況であった。
しかしサタンにはまだ、戦況をひっくり返せる手がのこっている。四天王級のスキル、例えばソドムの『破壊神』は当たれば一撃でわんこたちを屠ることができるだろう。
ただそれをやるには今のHPじゃ心許ない。しかし回復系のストックは尽きてしまっている。そんなときサタンが思い出したのは先ほどわんこが飲んでいたポーションであった。
「確か、君たちに良く効くポーションだったかな?」
「くぅん」
「あまり効かないかもだけど、モノは試しだ『治』…?あまりかいふ、ゲホッ!」
再現してすぐに咳き込むサタン。その他にも身体が軋み、頭が重く感じる。そんなサタンの様子を確認した雫はアンフェを呼ぶ。
「アンフェ!」
「おお♪」
アンフェもそれに応じて先ほどの頼まれ事を実行する。
そんな雫たちを見てサタンは自分が罠に掛かった事を覚る。
「ゲホッゲホ! 完全に専用アイテムって、ことかな? 私が使うと害があるタイプの」
「まあそんなとこです。わざわざ『破道』でわんこたちに渡した甲斐があったです」
「…ゴホッ。それなら別の再現を発動すれ…なっ! 何だこれ、茸?」
ポーションの効き目が余程だったのか、サタンはようやく自分の肉体に生える茸に気がつく。そして『完全再現』を発動できなくなってることも。
「何で…だ?」
「その茸は『惰性のこ』。宿主は全ての現状が維持されるです。つまりポーションを『再現』した現状が維持されてる筈です」
「…つまり『完全再現』の制約上、他の再現は不可ってことか。まさか『完全再現』が茸に負けるとはね。これだから面白い!」
「まだやるです?」
「ふふ、当たり前だよ。私も魔族だからね!」
状況を全て理解し、自身の不利を受け入れ、それでもサタンは諦めない。逆境を楽しむかのように。
サタンの最後の表情は満面の笑みであった。
【『魔族王狂乱』が達成されました。これによりユニット『絶壁王ガルジア』『虚無王カムイ』が解放されます。また『戦争王ディアボロス』『破壊王ソドム』の凍結が解除されます】
次回、魔国編クライマックス?




