再現できぬモノ
「頼むです!」
「……」
そうやって雫は鉄ちゃんの肩をポンと叩く。
『幻鐵龍化』のリスクを伝えても雫の指示は変わらない。何か考えがあるらしいので鉄ちゃんも従うことにする。
幸いにもサタンは鉄ちゃんの『幻鐵龍化』を止める素振りもしないため、問題なく幻鐵龍となる鉄ちゃん。
「ガアァァーーーーー!」
「お、おお。凄いなこれは」
『幻鐵龍化』には時間制限があるため、悠長にはしてられない鉄ちゃんは、まず『龍神の咆哮』でサタンを拘束する。その隙に接近し『鉄拳』を放とうとする。
しかしギリギリで拘束を解いたサタンは『絶壁』で防御兼カウンターを仕掛ける。
「くっ…『絶』!」
「…、グァァ!」
それに気づいた鉄ちゃんは直前で物理攻撃の『鉄拳』から『龍神砲 鉄』に切り替える。
幻鐵龍状態での『龍神砲 鉄』は『絶壁』の守りすら貫く。とは言え与えたダメージは少量であり、サタンはまだ余裕の表情だ。
「ここまでの強化。楽しそうだ。さて『鉄』! …あれ?」
「……!」
「いや、ははは。ちょっと待ってくれないか!」
サタンは『幻鐵龍化』を再現した。そして再現は成功した。にも関わらずサタンの能力に微塵も変化は起きない。混乱するサタンに、今が好機と鉄ちゃんは猛攻を仕掛ける。
「…よかったです。想像通りだったようです」
「わふ?」
「単純な話です。『幻鐵龍化』は普通の強化スキルじゃなくて合体とか融合スキルですから」
「わんわん!」
「まあそうですけど、『完全再現』はスキルとか魔法をそのまま再現してるです。ソドムのスキルを再現したら武器が壊れてたですし、わんこの影移動もちゃんと影を経由してたです」
「わん」
『幻鐵龍化』の前身である『鋼龍化』のときからだが、小鉄たちを取り込み強化するスキルであるため、それが無いサタンが再現したところで強化はされない。
懸念として能力アップなどだけを再現して強化される場合も考えられたが、もしそのような再現が可能であるならば、ソドムのスキルなど代償を支払い強力な攻撃を放つモノを、攻撃力だけを再現しリスクを無しで再現可能となる。
しかしこれまでの戦闘でサタンはそういった良いとこどりの再現は使用していなかったため、大丈夫だと考えていた。
「あともしサタンが小鉄たちを再現で召喚したとしても、『幻鐵龍化』は無理だったです。だって1つずつしか再現出来なくて、1つ再現したら再現してたモノは自動で解除されるらしいですし」
「わん!」
ちょっとした賭けだったが、雫の読みが的中した。そしてこうなった場合、サタンがどういった行動を取るかも。
「一応の対策はしてるですけど、どうなるかです」
雫が見つめる先では、雫が思っていた通りの展開になっていた。
「そっか。確かにそういう強化方法は私には再現できないな。残念だ」
「……!!」
「流石にこのまま攻め続けられると厳しいね。『付』」
サタンは『不落王』アテナの空間付与。その中でもスキルを解除する付与を再現し『幻鐵龍化』の解除を試みた。しかし
「………?」
「あれ?」
またしてもサタンの予想外の事態が起きた。スキルの効果が取り消される付与は張られた。それなのに小鉄と鉄ちゃんの融合が解除されない。
鉄ちゃんも驚いた様子で雫の方を振り替える。すると雫は鉄ちゃんに向かってグーサインを出していた。
「………」
「彼女の仕業かい?」
「………!!」
瞬時に状況を理解した鉄ちゃんとサタンは戦闘を再開する。
「わふ?」
「あれです? あれは『惰性のこ』って言って…」
わんこも疑問に思い聞くと雫は揚々と説明しだす。
その説明を聞きながらわんこが鉄ちゃんの肩を見れば、先ほど雫が叩いた場所に見慣れない茸が生えているのだった。
『惰性のこ』
宿主の状態異常、属性、能力値、その他諸々を現状維持させる。一定時間経過で宿主に応じて『精力のこ』か『怠惰のこ』に進化する。




