ポコポコ魔王
雫たちが準備を終え去った『破道』には、元『魔国王』で現『戦争王』ディアボロスがやって来ていた。
「ディアボロス、お前だけか? 『三将』の奴らはどうした?」
「ああ、彼らは僕より先に遷都予定地に向かって貰っているよ。今は人員が足りないからね。僕もすぐに向かうつもりさ」
「見届けないのか?」
「…どちらが勝とうとも、強い方に従うまでだよ。魔族なんだからね。それにどちらにせよ魔都は必要だよ。旧魔都はサタン様が貴方のスキルで破壊しちゃいましたしね」
「俺のせいにするな。魔王様の判断だ。分かった。魔王様の戦いは俺が見届けることにする」
「それではそちらはお願いしますね」
そう言ってディアボロスは去って行った。
「そろそろか」
そしてソドムも魔族王が待つフィールドの観戦エリアへと向かうのだった。
『破道』を出発して少し歩く。ギミックやモンスターの出現は無く、雫たちは無事に目的地に到着する。フィールドの真ん中に1人の魔族が静かに佇んでいた。姿は雫が造った『肉体』とそっくりであった。
「我は王。魔族の王、サタン・グリゴリ。良く来たな無謀な人族どもよ」
『さっ そく♪ にせ もの♪』
「あ、やっぱりです? 何か違和感あったです」
普通ならコレが魔族王ということなのだが、製作者である雫と『虚の理』を持つアンフェは、コレが偽物だと判断する。すると何も無い場所から声がする。まるでカムイと戦った時のように。
「ほう。流石は我の創造者とその配下と言ったところか。2度は通用せんか? まあいい。我と遊ぶ前にソレと戯れるがいい」
サタンのかけ声に応じるように偽サタンは動き出す。『虚幻』と『虚構』のコンボ。と言うことは、良いタイミングで誰かを『虚構』で偽サタンと同じ次元へ引きずり込む算段だろう。しかしサタンが持つ『完全再現』ではこのコンボの真価は発揮できない。
そもそもこのコンボは『虚構』によってタイミング良く、現と幻を入れ換えるから効果を発揮する。ストック制の『完全再現』では何回か切り替えたところで使えなくなるだろう。
そもそもの話をすれば、カムイが攻撃力にリソースを注ぎ込んだ『虚幻』で、鉄ちゃんに多少のダメージを与えられたのだから、サタンにそっくりになるように見た目に相応のリソースを使った偽サタンでは鉄ちゃんの防御を突破できない。つまりこうなる。
「私をポコポコ殴る姿はなんだか可愛いです」
「こっ けい♪」
懸命に雫を襲うが『霊亀の首飾り』のお陰でノーダメージ。魔王然とした風貌の偽サタンが少女を殴るもうんともすんともいわない様子はアンフェの言うとおり滑稽である。
それには流石のサタンも耐えきれなかったのか、偽サタンは雫たちが手を出す前に消えてしまった。そしてどこかに隠れていたサタンが、姿を現した。
「もういい。我が相手をしてやろう!」
「ぷぷぷです。恥ずかしくなって出てきたです」
「うるさい! 創造者だからと寛大にしてやるのはここまでだ。叩き潰してくれる」
図星を突かれたサタン。今度は本体が襲い掛かってくるのだった。




