諸共とは限らない
本来なら十二守護魔という盾を失ったナルタルに勝ち目は無い。しかしナルタルが発動した『死ナバ諸共』によりソドムは攻めることを封じられ、防戦一方となってしまった。
「喰らいやがれ!『怨嗟咆』『呪鎖縛』『火炎葬』」
「あまり、調子に乗るなよ」
「あぁ? それなら攻めてこいよ! 逃げてばかりじゃなくてな!」
それを観戦してる雫には、イマイチ飲み込めない事があった。見てれば『死ナバ諸共』の効果は分かる。ナルタルの死を発動条件に、ソドムを殺すスキル。しかしそれほど強力なスキルを保有してるのなら、雫たちと戦ったときなぜそれを使わなかったのだろう。
「わん!」
「そうです? 強いスキルだと思うですけど」
「………」
「…まあ確かにボスが持っててもあんまりなスキルかもしれんですね」
「わん」
「ああ、どっちが死んでもですか。それはありそうですね。それなら使うのは敗けと同じって言葉の意味が通るです」
雫とわんこたちでは『死ナバ諸共』の評価は異なった。基本的にボスが倒された時点でそこのフィールドはクリア扱いとなる。強いていえば報酬や経験値などがちゃんと受け取れない可能性がでるくらいであり、それは悪足掻きにしかならない。これが中ボスクラス以下が保有していれば、厄介この上ないが、ボスに相応しいとは言えない。
そしてスキルの強制力の高さから、『死ナバ諸共』はナルタルが死ねばソドムも一緒に死ぬが、逆にソドムを倒した場合は、術者であるナルタルが死ぬ効果なのではと予想される。つまり勝ちを諦めて、両者死亡による引き分けを狙う腹積もりなのだろう。
ナルタルのそれは弱者の戦い方である。このまま戦っても必敗だから一矢報いようとした。この矢はソドムを射貫く筈だった。しかしナルタルは、ソドムを攻め立てる快感に酔いしれ、選択を誤る。
「…です」
「わふぅ?」
「ソドムが、何かやろうとしてるです」
雫はソドムのやろうとしてる何かを、危険だと考えた。しかしナルタルはそれをただの悪足掻きだと侮る。
「なんだ、反撃か? 殺れるもんなら…」
「反撃? 確かに反撃と言えばそうだな。これの発動には少し時間が必要でな。『能壊』」
ソドムが、それを発動されると手に持っていた武器が塵と化した。
「おい『破壊王』。武器を代償に攻撃力を得るのがお前のスタイルだが、それは何の冗談だ?」
「俺は『破壊』をトリガーにする能力が多い。これもそうだ。『能壊』の効果は発動された…スキルの破壊」
「!な、なん」
「破壊の対象は俺に掛かっていた『死ナバ諸共』。お前のスキルだけあって壊すのに時間が掛かったぞ!」
「こ、の。くそが!」
もう一度スキルを発動する隙を与えてはくれない。ナルタルがソドムの言葉を理解するまでに要した時間で、既にソドムは攻撃体勢を整えていた。
結局ナルタルは、『死ナバ諸共』を発動して直ぐに接近戦をしかけ、反撃を誘い殺られればそれで終わりであったのだ。しかし得意の遠距離戦で倒そうとした。『死ナバ諸共』を発動したという屈辱を、せめてソドムを倒すことで晴らそうとした。それこそが最大の誤りであった。
「スキルを隠しているのは、お前だけじゃないのさナルタル」
ソドムは少し寂しそうにそう呟くのだった。




