もっとしあわせ
ここからが本番である。カムイはいまだ、姿すら見せていない。まずはカムイを見つけなければ話になら無い。
しかし雫は、その前に残った疑問を解消することにした。それは先ほどのカムイの言葉。
「『虚構』が破られた」
雫としては『虚構』を完全攻略したつもりは無い。何故なら『愚鈍』を使えるのは鉄ちゃんだけであり、雫やアンフェを『虚構』によりフィクションの世界へ引きずり込めるかは、カムイ視点では未知数の筈だ。
そこでもう1つの疑問、何故カムイは鉄ちゃんを攻撃したのかに繋がる。
飛び回るアンフェは兎も角、『虚構』を使うのであれば防御も録にできない雫を狙えば良いのに。カムイは事前に雫たちについて調べていたのだろう。先ほどもその様な発言をしていた。であれば雫が戦闘音痴であることも知っているだろう。
それでは何故、近接戦闘が得意な鉄ちゃんを狙ったのか。『虚構』が破られたとしたカムイの発言と併せて考えると見えてくるものがある。
「……?」
「つまりです。敵は幻惑なりで姿を隠した上にです、常時『虚構』で幻の世界に逃げてるです。だから私に『虚構』をしなかったです。私が反撃でボムを使えば、アイツも巻き込まれる可能性が出てくるからです」
「さす がだ♪」
ある意味当然の話である。『虚構』に逃げ込めば実体化した敵に干渉されないのだ。そのためそこを解明されたカムイも、動揺する素振りもない。
「それで? どうする。お前たちにぼくをがいすることはできないよ。ざんねん」
余裕綽々なカムイ。しかし余裕の要因が分かっているなら、対処もしやすい。
何か思い付いた様子の雫は、ボムを3つ取り出す。それを見て嘲笑するカムイ。
「鉄ちゃん、防御強めです」
「……!」
「なになに? やけくそかな?」
煽り出すカムイを無視し雫の投擲が始まる。1つ目のボムが爆発する。しかしカムイには当たらない。
「あたらないよ? 自ばく?」
2回目の爆発も不発である。現実の鉄ちゃんだけが傷を負う。
「だーかーら」
そして最後のボムが地面に落ちる。
「むだだっ…ァガ!!」
「お、当たったです。ビンゴです」
『虚構』にいる筈のカムイを襲う爆発。
2度の無駄撃ちで油断していたカムイは、完全に虚を突かれる。久しぶりの痛みに余程動揺したのか、スキルが全て解除されカムイの姿が現れる。
「な、なんでだ!」
「やっぱり私、冴えてるです」
「おお♪」
「……」
「こたえろ!」
明らかに怒気を滲ませ叫ぶカムイをガン無視する雫。彼女が放ったボムは1つ目と2つ目は通常のボムだが、3つ目は違う。
『異界の轟音』。わんこの影など、別のフィールドを対象に爆発するボムである。それが『虚構』の幻の世界を対象にするかは賭けだったが、当たりだったらしい。
真の意味で『虚構』が破られた。不可侵である『虚構』を襲う謎の攻撃。カムイは余裕は完全に崩され、見る影もない。
「ふざけるな。おまえだ、おまえさえいなければ!」
「怖いです。いきなり性格変わったです?」
「もうゆるさない。ゆるさないぞ! 『虚無』」
「です…」
動揺し錯乱したカムイは、その原因である雫を取り除くために奥の手の『虚無』を雫に向かって発動する。すると雫の姿が消える。
『虚無』とは存在しないこと。つまり雫の存在をこのフィールドから抹消したのだ。
無論、カムイは『死合わせ』の事を知っている。どうなるかは想像だが、『虚無』をしても命が繋がっているわんこの元で復活するだろう。つまり時間稼ぎにしかならない。
それでもわんこたちに雫が合流し、『戦道』を突破するまでに鉄ちゃんたちを倒せると判断したのだ。
「『虚無』をこんな形でつかうことになるなん…は?」
「まったくです。いきなり消されてびっくりしたです」
「な、んで? てんい? ここはそういうズルはできないはず…まさか『死合わせ』のたいしょうをこいつに?」
『虚無』により消された雫が、平然と存在していることが理解できないカムイは『死合わせ』の対象がわんこではなく、鉄ちゃんであった可能性にたどり着く。それならば確かにここに復活する説明がつく。
「そんなひごうりな。ふつう分けるだろ」
しかし本来ならあり得ないことだ。2手に分かれた意味が全く無くなるのだから。しかし雫はとぼけ顔で答える。
「『死合わせ』です? いつの話してるです。私はとっくに『死併せ』です」
『錬金術の真理』に到達した雫が自身のスキルを実験台にしない訳がない。そのお陰で対象者が1人であった『死合わせ』から2人となり、効果範囲も格段に増加した『死併せ』に進化済みなのだ。
よりしあわせになった雫が選んだ対象は勿論、わんこと鉄ちゃんである。そのため消されても直ぐに復活したのだ。
「ふざ、ふざける…」
「さてとです。『虚構』してもいいですよ? どっちのボムか分かればですけど」
奥の手である『虚無』が通用しなかった今、カムイに通常ボムと『異界の轟音』の連爆を防ぐ術は無いのであった。
『死併せ』は魔族王戦で回収する予定でしたが、そこまで取って置く意味が見出だせなかったので即回収。




