嘘か本当か
カムイが放った嘘も本当になる。この言葉を信じるのであれば『虚構』は、実体の無い幻影を現実の敵にすることができると言うことである。
ただ、突然のことで混乱していたが冷静になってみればそれだけである。確かに『幻惑魔法』等で造り出す幻を自由に実体化させるのは凄い能力である。しかしただの兵士を実体化させた所で、鉄ちゃんの防御は突破できないだろう。
「しょせんうそはうそ。とでもおもってる?」
「…まあそうですね」
「だよね。でもね『虚幻』ならべつだよ」
そう言うとカムイは目の前にいる兵士と入れ替わりに、違う兵士を出現させる。先ほどの兵士と特に変化が見られず、拍子抜けする雫。
「なんです、ネタ切れですか?」
「どうかな?」
今度は雫では無く、鉄ちゃんに斬りかかる兵士。何の工夫も無い通常攻撃。鉄ちゃんに通用する筈が無い。誰もがそう思う。
その予想を裏切りように、その剣は鉄ちゃんの身体に傷を付けた。
「………!」
ダメージはそこまで無いがそこは問題では無い。龍神となり防御力がインフレしている鉄ちゃんに、通常攻撃でダメージを負わす。それはあの平凡な兵士の攻撃力が、雫のボム並みだと言うことだ。
雫たちは驚愕を隠せない。一方でカムイも
「かった。ガルジアでももう少しくらうのに」
今の攻撃に自信があったのか、多少のダメージしか入らなかったこと驚いた。
『幻惑魔法』などにより生み出されるのは幻は、ただの錯覚。姿だけの存在であり、どんなに凄い幻であっても結局他と同じなのだ。
しかし『虚幻』で造り上げた幻は違う。姿だけでなくステータスやスキル、その他の設定。すべて造り込まれた幻。錯覚などを遥かに上回る高度な嘘なのだ。
そして今回造られた兵士は、殆どのリソースを攻撃力に注ぎ込んだ、最高火力の兵士である。それが大したダメージを食らわせられないとなれば少し驚く。しかしカムイ
「まあでも、数ふやせばいっしょかな?」
同様の兵士を2体生み出す。いくらカムイと言えど自身の想像力を注ぎ込んだ作品は3体が限界である。しかしそれでも十分すぎる戦力だ。超火力兵士たちは、連携して鉄ちゃんを追い詰めていく。
鉄ちゃんも応戦するが鉄ちゃんの攻撃のタイミングで、実体化を解除するのか空振るばかり。一方的な展開になってきた。
アンフェも回復支援を行うが、いつ新たな敵が召喚されるか分からず、警戒しながらの支援のためか何時もより手際が悪い。対策しなければいずれ限界が来るだろう。
「さて、どうするかです」
まず思い付くのがスキルを使い防御力を上げることだ。しかしそれでは問題の先延ばしにしかなら無い。それをするのは本当にピンチになってからだろう。
次に浮かぶのは『愚鈍』である。スキルや魔法などを無効化する、本来ならカムイのようなタイプと相性の良いスキルだ。しかし『愚鈍』は自身に影響のあるスキルや魔法を無効化するだけであり、カムイが使う『虚構』のように、幻を実体化させるようなスキルを無効化するモノではない。つまりこれも却下である。
とここまで考え、雫は思考を停止する。自分の考えに違和感があったためだ。
「何が原因です?」
雫はこれまでの思考を遡る。するとなぜ違和感を覚えたか判明した。
雫は『虚構』は嘘を本当にするスキル。幻を実体化させるスキルだと思い込んでいたが、それはいつものように雫が考えて突き止めた結論では無い。カムイの嘘も本当になるという言葉を鵜呑みにして出した結論である。
わんこたちにころっと騙されることは多々あるが、敵の言うことを全く疑わず、思考を放棄するほどいい子ちゃんでは無い。
つまり
「鉄ちゃん、『愚鈍』です」
「……!」
鉄ちゃんが『愚鈍』を発動する。すると先ほどまで鳴り響いていた剣戟が止む。先ほどとは打って変わって兵士たちの攻撃は虚しく空を切る。
「なるほどです。嘘を本当にするんじゃなくて本当を嘘にするですか」
「『虚言』がやぶられたよ。せっかくたのしい『虚構』だったのに。つまんないの」
「気づけてよかったです。ゲームやってたお陰です」
『虚構』とはフィクション。それは現実を架空へと引きずり込む。
現実世界を生きる雫が、ゲームというフィクションの世界に来て、わんこたちと触れ合えるように。『虚構』は実体化した存在を幻の領域に引きずり込む。
「私、ゲームのお陰でどんどん賢くなってるですね」
咄嗟に出るゲームのイメージが、フィクションに引きずり込まれる雫。賢くではなくおかしくの間違いではないかと思うが、雫は納得したのか、うんうんと何度も頷くのだった。
『虚構』
対象者を幻の次元に引きずり込み、幻でも干渉できるようにする。『虚構』を解けばお互い干渉できなくなる。
つまり、この話で伝えたいことは「皆、ゲームやろうぜ」です。この話をみてさぞかし皆さんゲームをやりたくなったことでしょう。
すみません。ふざけました。




