虚無王
4つの分かれ道。魔族王を除く敵の4強は『戦争王』『破壊王』『絶壁王』『虚無王』であろう。看板の文字とも合致する。
「ナルタルは『破道』、アテナは『絶道』です?」
「わん!」
「となると『戦道』か『虚道』です? あれ、何か出てきたです」
雫が『戦道』の看板を見ていると、とある文章が出現する。
【全ての道を極めよ。さすれば王への道は開かれる】
他の看板を見てもその文章が出現する。それを見た雫は、4つの道全てを攻略しなければ、魔族王まで辿り着けないと解釈する。
『霊魂貸与』を警戒していた雫は、もともと配下はできる限り倒す予定であったため都合が良い。
「となると時間節約です。2手に分かれるです。わんこ、シロ、ラスは『戦道』を頼むです」
「わふっ!」
2手に分かれるという案に驚くわんこたち。全ての道を進むにしろ、全員で1つずつ回った方が安全な筈だ。
「あるじ、なんでふたてにわかれるの?」
「その方が安全だからです。特に『虚無王』の情報が全く無い状況下ではです。ね、わんこ?」
「…わん!」
わんこはそう指摘され漸く気がつく。四天王級の相手は全員、唯一無二なスキルを所持している。それが初見では対処が難しい可能性もあり得る。下手すれば全滅の危険性もある。
しかし2手に分かれれば『死合わせ』を持つ雫は助かる。それでも渋い顔のわんこ。
「くぅん」
「私はいつでもお前たちに守られてるです。それに私は前よりしあわせになってるです。分かってるですよね、わんこ」
「…わん」
「なら問題無いです。私は気にせず頑張ってくれです」
最後は雫に説得され、わんこたちは『戦道』へ、雫たちは『虚道』へと進むのだった。
『虚道』を歩いていると、最初にアンフェが異変に気づく。同じ道を歩いていると。そう指摘されれば雫たちもこの感覚に既視感を覚え始める。
第4の街でドリーが形成していた『迷いの森』や魔大陸第2のフィールド通称『魔女の森』に入ったときと同様の感覚である。
しかし幻影魔法に耐性があるアンフェが、すぐに気付けなかったとなれば相当の術者ということになる。
そして雫たちが異変に気づくとそれに応答するかのように、どこからか声が聞こえてきた。
「あれ、あれれ? もう気づいちゃった? やっぱりディアの言うとおりげんわく魔法じゃだめか。ざんねん」
この場にそぐわない幼い声がフィールドに響き渡る。
「誰です?」
「あれ、あれれ? かんばん見てこなかったの? ここは『虚道』ぼくのフィールド。ぼくは『虚無王』カムイ。よろしくね」
「配下くらい出てくると思ってたですけど、最初からですか」
「まあぼくにはいらないからね、そんなの」
と会話を止めたカムイ。すると鎧を着た兵士が雫たちの目の前に突然現れる。しかし
「ちが う♪」
その兵士を見たアンフェは即座にそれが現実の兵士では無いことを見抜く。
「やっぱりわかっちゃうかー。ざんねん。でもね…」
幻影の兵士が雫に襲い掛かってくる。危険は薄いが一応鉄ちゃんが前に出る。当然、実体の無い兵士は鉄ちゃんをすり抜ける。そのまま雫を襲い、剣で突き刺そうとする。
そしてその剣はすり抜けず、雫にリアルに突き刺さる。
「……!」
「なんです?」
霊亀の首飾りの効果でダメージは鉄ちゃんが肩替わりしているが、突き刺された衝撃で雫は少し混乱する。
「ぼくの『虚構』の前じゃうそもほんとになるんだよ。ざんねん」




