魔国の現状
『人魔大戦』から一夜明け雫がいつものようにログインすると、クランメンバーである煉歌たちが慌てたようにやって来て、魔都崩壊について詳細を語り出した。
彼女たちは魔都崩壊のアナウンスを聞き、すぐに魔国へ向かった。そこで目にしたのは、予想以上に崩壊した魔都の様子であった。魔王城は崩れ落ち、建物も軒並み傷付きボロボロである。しかも修復作業に入ろうにも魔都の被害と同様、住民の魔族たちもボロボロであり、すぐには動けそうにない。しかも魔都のトップ、ディアボロスの行方が分からないため被害を受けなかった魔族たちも何処から復興して良いか分からず右往左往してるのだ。
そんな魔都の現状を聞き終えた雫は一言。
「ふーんです」
「ふ、ふーんって、くらます。何か他に言うこと無いの?」
「別にねーですけど、強いて言うなら今回の原因って誰なんです?」
「いやー、それはクエスト名からも自明なんじゃ。魔族王さんでしょ?」
「それなら放って置けばいいです。生まれ直して自国を壊したい心境になったんです。よく知らんですけど、イヤイヤ期みたいなもんだと思うです」
「絶対違うけどね!」
そんな子育てに悩む夫婦の如き、微笑ましい会話を繰り広げていると、わんこが事情を知ってそうな人を連れて来る。
「俺様が来てやったぞ」
「あ、ナルタルです。魔王も破壊王も離反したのに仲間外れにされた悲しいナルタルです」
「んだと! 呼ばれたから来てやったのに随分な言い様じゃねーか」
会ってそうそう煽られるナルタル。だが雫の言葉通り、ディアボロスやソドムが離反したと記載されている中、ナルタルとアテナは魔族王に付いていかなかった。アテナは魔族王との関わりが然程深く無いようなので分かるが、ナルタルは魔族王を尊敬しているようだったため意外であった。そのためわんこが気を回して呼び出したのだ。
「というか俺様は仲間外れにされたわけじゃねーぞ。俺様の方から断ってやったんだよ!」
「そうなんです?」
昨晩、ソドムが魔族王復活の一報を伝えにナルタルの元にやって来たと言う。加えてソドムは再び魔族王の配下に下るよう命令してきた。しかしナルタルはそれを拒否し、今に至る。
「断って何もなかったです?」
「いや。襲い掛かってきやがった」
「で、負けたです?」
「チッ! アイツも俺様を破壊できてねーんだ。引き分けだ引き分け!」
「へーです」
雫は、そんな言い訳をするナルタルを冷めた目で見つめる。
「実際、魔王様の加護が戻った状態のアイツは強い。今の俺様じゃ勝つことは難しいのは認めてやる。だが負けてはねーぞ!」
「まあいいです。でも何で断ったです?」
「魔王様は戻られたが今の魔王様は前より攻撃的になりすぎてる。魔都崩壊なんてあの人の性格上考えられねーしな。その原因はソドムの野郎曰く、お前の造った身体の凶悪性に引っ張られた結果らしいが」
「そうなんです? まあ自信作だったですしね」
「…まあいい。強さこそ正義に従うなら今の魔王様の強さはお前の強さだ。ならお前から魔王様に乗り換えるのは俺様の信条に反する。それだけだ」
ナルタルは語りすぎたと思ったのか照れ隠しに捲し立てる。
「お前がどう動くかはどうでもいいが、忠告だ。魔王様と対立するなら早めにしろ」
「何でです?」
「配下が揃うと魔王様の本領が発揮されるからな。魔王様が持つ唯一のスキル『完全再現』が」




