勝戦後
『帝国の門が破壊されました! 帝国のプレーヤーが退場します』
帝国の門が破壊されるまでの間時間稼ぎをする目的を終え、わんこと鉄ちゃんが雫の元に戻ってきた。しかし一緒に行動していた筈のラスの姿は無い。
聞けば良いところで門が崩れ、勝敗が有耶無耶になってしまったため、憂さ晴らしに残党狩りをするらしい。護衛に小鉄たちを同行させたので何とかなるだろうとのことだ。
「わん!」
「そうですか。門に叩きつけられたときは駄目かと思ったですけど、ラスも成長してるですね。そういえばわんこたちはどうだったです?」
「…………」
「わんわん!」
今回、2人の能力を考えればこそだが、それほど活躍しなかった。それは雫の作戦のサポートに回っていたと言うこともあるが、警戒していたため力を温存したためでもある。わんこたちは魔国側で言うところの四天王クラスの実力者が現れても良い様に備えていた。
しかし帝国陥落のピンチになってもその様な存在が現れなかったため、アックスたちを温存していた力で屠ったのだ。
「『影帝』も『愚鈍』も使ったですか。気にいったなら良かったです」
「わん!」
「………!」
雫が新しく造り与えたスキル。わんこには固有ユニット『影帝』を召喚し、追加効果で召喚中、各種ステータスと闇夜魔法の威力や制御性を大幅に向上させる『影帝』と自身も使えなくなる代わりに全ての魔法、スキル、追加効果などを無効化する『愚鈍』。これの活躍により前のイベントではそこそこ苦戦したアックスたち相手に、終始有利に戦いを進めることができた。
「でもわんこの超強化は強いですけど召喚される影帝が弱いのが弱点です。『愚鈍』も鉄ちゃんと相性が良いですけど、自分もスキルとか使えないのはどうかと思うです。やっぱり改良が必要かもです」
これを見ればわんこたちの強さは、彼ら自身の強さ以上に雫による完璧なサポートがあってこそだと分かる。ただでさえボス級のわんこたちが、相性ぴったりで尚且つ、希少で有用なスキルや装備を準備してやってくるのだ。堪ったものではない。そう考えればアックスたちは善戦した方なのかもしれない。
「まああとは他の人が頑張ってくれるです。私たちはこの門が破壊されないようにしてれば良いです」
「わん!」
雫たちはそれから唯一の負け筋を潰すべく、門の前に陣取って防衛に徹するのだった。
帝国の門が崩れ落ちてから少し時間が過ぎ、王国の門が、それから少しして聖国の門が破壊されたアナウンスがフィールド内に響き渡る。これにて第1回『人魔大戦』は魔国の圧勝で幕を閉じた。
圧勝であったため報酬も予想以上に豪華であり、魔国所属のプレーヤーたちは歓喜に沸く。まるで自分たちのお陰で勝利したような喜びようである。騒がしいのは苦手な雫はすぐに退出しようとする。
「魂も手に入った。これで『再誕の術』が始められる。礼を言うぞ」
「そうですか」
「それではな」
そんな雫よりも早くソドムはフィールドからいなくなる。彼にとってはこれからが本番なのだ。それに習うように雫もフィールドから退出し、打ち上げの誘いチャットなどを全て無視してログアウトするのだった。
イベント後すぐにログアウトしてしまった雫がこの後起こる魔国の一大事に気が付くのは、次の日であった。
【『魔族王狂乱』が発動されます。魔都が崩壊し国力が大幅に低下します。また『魔王』の移行に伴い離反者が出ました。ユニット『戦争王ディアボロス』『破壊王ソドム』の解放が凍結されます】
さて本番です




