自重崩壊
「なんだと! どうにかできないのか?」
アックスたちの元に門の異常が知らされたのは、最初にプレーヤーが異音を聞いてから少しした頃であった。勘違いと断じた軋む音はどんどんと大きくなり、門前のプレーヤーたちは続々と気がつき始めた。
心配になったプレーヤーたちは門の耐久値を確認し、全体の2割ほどが消失しており、今尚減少している最中であるという事実に愕然とする。見れば門には茸が無数に生えている。原因はこれだと理解した彼らは総出で茸狩りを行い、門に生えてる茸を採り尽くすことに成功する。しかし耐久値の減少とミシミシと軋む音が止むことは無い。そんな報告を受けたアックス。
「やってくれたな!」
「くぅん?」
「全部お前のご主人様の思惑通りか?」
「わんわん」
「…ならお前だけでもここで倒してみせる」
自分がそこに行っても役に立たないことを悟った彼は、最悪を想定し覚悟を決めるのだった。
帝国拠点の状況を、わんこたちを通して間接的に把握した雫は、自身の作戦が成功したことに安堵する。これが駄目だったらわんこに乗り、移動砲台と化して敵拠点を練り歩く必要がでてきた。
「それはそれで面白そうです。今度があったらそれも良いです」
「シズさん、どうしました?」
練り歩きを想像しなんだか楽しくなってきた雫。結局今回のイベントでは用意した作戦が仇となり、魔国の門の前から一歩も動いていない。
「やっぱり行き当たりばったりがあってるです。作戦を事前に決めるとそれを見届けたくなるですし」
「それでいいんじゃありませんか? 上手く行ってるみたいですし。そういえばシズさんの作戦ってどんなのだったんですか?」
「うんです? 別に大した作戦じゃねーです。えーとまず『再編』で敵をごちゃ混ぜにしてです」
雫は自身の作戦を説明し出す。彼女が今回の大戦で一番警戒していたのは生産職の存在であった。門の耐久値がとんでもなく、正攻法では大技を何度も食らわす必要がある。そんな中自分が門の改造を思いつき、実際にできたことを踏まえると、そこまではしなくとも門の修理くらいなら行うだろうと考えた。
そうなれば削っても削っても、治されてしまう。そのため『再編』を使用し、わんこたちに生産職狩りをお願いした。そしてわんこにはその混乱に乗じて『感染』を行ってもらった。
「今回使ったのは『老朽茸』ってのです。装備とかの非生物にだけ生える珍しいやつです」
「そんなのがあるんですか」
「寄生してる装備や周りの物を老朽化させる悪い奴なんです。強い装備とかには寄生するのに時間が掛かるですし、胞子がそんなに拡散しないですから、繁殖する範囲は狭いですけど」
そのため門に『感染』させるには、感染者たちが門に集まる方が好ましい。その点は、感染者を隔離するとすれば拠点奥であろうし、そうなれば門の近くに行ってくれるかもと雫は考えていた。そうなれば門が『感染』するのは時間の問題である。とはいえ門が『感染』しただけでは門の耐久値を削り切れはしない。しかし
「あの門は立派でちょっとやそっとじゃびくともしないです。となるとその重量は半端じゃない筈です。そんな門が『老朽茸』によってしたから老朽化してったらどうなるです?」
「ということはですよ。まさか…」
「名付けて『下から老朽化させて自重で破壊しないかな』作戦です」
雫は門のポテンシャルを信じたのだ。土台が少しでも綻びれば壊れるほどの重量であると。 結局、今回彼女は門を自衛させ、門を自滅させた。プレーヤーを倒すのではなく自国の門を守り、敵の門を破壊することを主目的として行動したのだった。
雫が起こしたパンデミックにしては感染者の被害がステータスの減少と一部のスキルの使用制限と軽微だったのは、感染してるのが装備だったからというオチ。
この頃スランプだなーと思ってたんですけど、思い返すと別に調子良かったときが無いので大丈夫でした。




