想定外
人族側も開幕から雫のボム炸裂は想定内であった。と言うよりも乱戦が予想される『人魔大戦』で凄まじい攻撃範囲を誇るボムを使えるとすれば、敵味方がはっきりしている序盤くらいだろう。ただ上手く陣形をすり抜けられて拠点までいかれた場合、時間など関係なくボムを投擲されるかもしれないとも考えていた。
しかしボムへの対策は万全であった。結局ボムも通常の攻撃には違い無いため、『ダメージ反射』などのカウンター系のスキルや魔法を使えば防ぐことが可能だ。もし拠点などに甚大な被害が出ようとも、そのカウンターで雫を倒してしまえば勝利できるだろうと高を括っていた。
「舐めているつもりは無かったが、魔国を過小評価していたと言うことか。しかし四天王と言えど1人で俺たちがここまで押されてるなんて」
人族側の作戦は防衛に半分、残りの攻撃の人数は拠点襲撃を少数精鋭にし、相手の攻撃組への襲撃に人数を割いてた。そして速やかに敵の攻撃組を倒して合流であった。
しかしその計画も『破壊王』ソドムの登場により瓦解した。奇襲組を指揮していた『剣聖の集い』の盟主ベルは四天王を侮っていたことを後悔する。
「まったく。これでは彼女の作戦までに間に合わないな。情けない」
そしてソドムは奇襲組を半壊させておいて、自身の力不足を嘆くような態度である。これは彼らのプライドを大いに刺激する。そのため彼らはソドムの発言、彼女の作戦と言う言葉を聞き逃す。
その直後、フィールドの中間地点付近にいるソドムたちからも目視できるほど大きな爆発が起きた。それを見て雫の情報が行き届いてない一般プレーヤーはパニックを起こす。そして馬鹿げた攻撃に呆れつつも感心するソドムと、想定通りに事が進んだと思い笑うベル。
「うん? あそこの爆心地はそっちの拠点だと思うが? 嫌いな輩でもいたか?」
「いや、俺たちの想定では攻撃を撃たせるつもりだったからな。作戦通りで嬉しいだけだ」
「やはり人族は甘い」
「何?」
敵の攻撃技を利用する発想は別に良い。だがそれは最後の策にしておくべきだ。戦いの基本は敵に何もさせないことだ。それをやってみて駄目であったなら兎も角、やらずに待ち構えるなどよほど余裕がある者の戦法である。
ソドムに馬鹿にされ、怒りを露にするベルだが、次の報告でそんな余裕は無くなる。
「やべぇぞぉ。対策が効かなかったぁ」
「何だと?」
「効果が無かった、攻撃ではなかったため。現在手薄に、帝国の防御が」
防衛組の盟主たちから状況を伝えられたベルは、ここにいていいのか判断に迷う。目の前にいる敵の存在を忘れて。
その隙をソドムは見逃さない。何とか拮抗していた戦況が一気に傾く。
「私は拠点に行かねばならん。通してもらうぞ!」
ソドムの猛攻が始まり、ベルたちはこれ以上の被害を出すわけにもいかず、撤退を余儀なくされるのであった。




