守りたくないなら
閑話を書いていたのですが、少しふざけすぎてしまい収拾がつかなくなったので本編を書きます
『人魔大戦』当日。プレーヤーたちは各々が所属する国の防衛拠点で開戦を待っていた。魔国の拠点にも続々とプレーヤー、そしてNPCの魔族たちが集まり出す。
魔国所属のプレーヤーたちは、まず魔族たちのステータスの高さに驚く。1人1人がプレーヤーたちと同格かそれ以上。指揮官クラスとなればパーティーで挑まなければ勝てないであろうレベルである。
次に別格を誇る四天王とその側近たちを見て大いに戦く。魔国所属のプレーヤーたちの平均的なレベル帯では、勝負にすらならない強さであろう。
そして最後に待っているのはそんな化け物級の四天王たちに囲まれつつも、相手にせず自分の世界に入っている雫。魔国に所属していて彼女の名前を知らない者はいないが、姿を知らない者もそれなりにいる。そのため雫を知らない連中から、謎の少女として注目を集めていた。また彼女が従えている配下たちも注目を集める要因となっていた。漆黒の狼に妖精の上位種、龍人に狐耳の巫女。そして焼かれつつそれ自体も燃えている繭。そんな集団が魔国最強戦力に囲まれているのだ。注目を集めない筈もないのだが。
「それで? ディアボロスは門の防衛をするんだろ? で俺様たちは別々の門を壊すと」
「そうだね。折角、駒が揃ってるんだからそうした方がいいだろ?」
「私も? 面倒」
「ナルタルとアテネは兎も角、私は1人なのだが」
「まあ君なら何とかなるだろう?」
そんな注目など歯牙にも掛けず作戦を立てる四天王。何度かプレーヤー側の首脳陣が話し掛けに行ったのだが、四天王の琴線に触れなかったのか相手にされなかった。
魔族とは強さに重きを置く存在であり、そのトップ層の四天王は半端な強さの者は相手にしないのだろう。
そして自分の世界に引き籠っていた雫も漸く戻ってくる。
「…取り敢えずです、私が用意したのは大体使えることがわかったです。だから予定通りわんこはコレを作動させて、その後は攻めです」
「わんわん」
「シロはコレです。設置したら戻ってこいです。鉄ちゃんはその護衛を頼むです」
「わかったよ」
「………」
「私は基本的にここにいるですから何かあったら戻ってくるです」
雫は雫で独自の作戦会議をしている。この光景をよく思わない連中は一定数いる。特に会議ばかりしていた穀潰したちに多い。そのため最終の会議で雫の単独行動を禁止しろという提案が出た。しかし今まで会議にほとんど出席してこなかった、魔国陣営でも少数の戦闘系のクランの面々がその提案を軒並み却下した。
今までは威張り散らしていた連中も、魔国側の主戦力となるクランから却下されれば従う他なく、結果、雫は好きに行動することが許されたのだった。
開始時刻となり、開始の挨拶などのアナウンスがフィールドに響く。ルール説明などひと通り終了する。
『以上で開戦の挨拶とさせていただきます。それでは長ったるい説明も終えたところで、これより10分後に『人魔大戦』をスタートします』
フィールド上空に600という数字が浮かび上がる。
『ただいまより準備タイムです。フィールドの移動や戦闘準備など、戦闘行為以外の全てのアクションが可能となります。カウントが0となった瞬間開戦となりますので上空には注意して、存分に準備して下さい。それでは準備タイム、スタート』
アナウンスが止み、上空の数字が減り出した。それを受けて皆、開戦に向けて慌ただしく動き出す。攻撃班の者たちは拠点から出発する。わんこ、鉄ちゃん、シロ。それに四天王たちも出発してしまった。
それを見届けた雫は拠点の奥、門へ向かっていく。門に戦火が飛び火しないように防衛班たちも拠点の端に陣取っているため、門付近に人は少ない。
「くらます? こんなとこに来て何してるの?」
「煉歌です。ただ防衛準備をしに来ただけです」
「準備? 防衛陣ならもっと前の方だけど。くらます1人で門を守るの?」
そんな質問に雫はやれやれと言った態度で応える。
「みんな門を守る気まんまんですけど、私はそんな面倒なことはしたくないです」
「え? でも門を破壊されたら負けなんですが」
「それです。私はやりたくないですから、自分の身は自分で守らせるです」
「は? え、今なんて?」
「この門に自衛手段を身に付けさせるです」




