炎の繭
『人魔大戦』まで残り5日。雫は『付与錬成』の実験を一区切りつけた。雫としてはもう少し掛かると考えていたのだが、『錬金術の真理』により錬成スピードが跳ね上がり、想像以上に早く終えることができた。
「それでです。これは何です? 繭です?」
そうして次は何をしようかと思案していた雫の元にわんこたちが戻ってきた。変な繭を持って。その繭は繭のくせに炎のようにメラメラと燃え盛っているようだった。
「わんわん!」
「えーラスです? こいついつの間に虫に成ったです? 鳥としてどうです?」
「くぅん」
燃える繭の中身はラスであった。先ほどまでいつも通りのゾンビアタックを繰り返していたが、奇跡的に敵と相討ちになったのだと言う。いつもならその後復活するのだが、炎に包まれたと思ったら気が付けば今の状況に至ったのだと言う。
「それで邪魔だから置きに来たです?」
「そうだよあるじ」
「まあいいです。…ああ、そうです、折角新しいスキルが手に入ったですし、お前たちの装備を強化したいです。どうです?」
次やることを決めた雫は『魔王の祭壇』を目指しているわんこたちに問う。
「………」
「2日、3日ですか。ならそれでいいです。私もまだ使いこなせてねーですし。それまでに形にしとくです」
「わん!」
今、装備を取り上げられると困ると言うわんこたちの反応が、『魔王の祭壇』までの道程の険しさを物語っていた。ただ普通に進めば後2、3日で到着すると言うので待つことになった。
用件を終えたわんこたちが魔国へ戻っていき雫も作業に入る。そのタイミングで今度は煉歌が帰って来た。彼女は複雑な表情でため息を吐き、いかにも悩んでますオーラを漂わせていた。
そんな煉歌を放って雫は作業を進める。
「はぁー」
近くでため息を吐き関心を引こう涙ぐましい努力をする煉歌。そんな事をしても作業の手を止めない雫。
「あーどうしようかな」
遂に声まで出し煉歌。そんな彼女を見もしない雫。
「…くらます! そろそろ声かけてよ!」
「そろそろです? もしかして私に用があったです? ならそっちから声かけろです」
根負けして声を掛けた煉歌に常識を諭すように接する雫。彼女に悩んでますオーラは通用しない。彼女はそのオーラを無視すらせず、ただ気がつかないで終わる。それを理解した煉歌は諦めて本題に入る。
「帝国側のストーリーが進行したのは知ってるよね?」
「帝国です? 何かそんなアナウンスがあったような、無かったようなです」
「あったんだけど。それが複雑で」
「複雑です?」
帝国のメインストーリーは『伝説の帰還』。かつて伝説と呼ばれた僅か10名で構成された騎士団。その騎士団の団員たちを集めて騎士団を復活させると言うのが大まかな流れであり、帝国側はその団員の1人の召集に成功したらしい。
今まで進行の無かったメインストーリーの進行。帝国側はさぞ喜んでいるだろうと思われた。しかしとある情報筋では帝国側の雰囲気は重苦しいのだと言う。
ストーリー進行のアナウンス直後、魔国側も妨害など対策できないか話し合われたのだが、そんな情報で戸惑ってしまう。
「いや知らんです。確かにストーリーが進んで暗くなるのは、…まあ、あるかもです」
「やっぱりか。今回みたいに幾つものクエストが組み合わされてるみたいなのって無かったから、悪い方に進行するとかもあると思う?」
「うーんです」
そう聞かれた雫はこれまでの事を考えてみる。
魔国のクエストは『四天王の平定』でストーリーが『魔族王の復活』である。ただこれまでの経験から四天王を集めただけで魔王が復活するとは考えにくい。下手な集め方をすれば魔王復活の妨げになる気さえする。
「あるかもしれんですね。けどまあ、どうでもいいです」
そこまで考えた結果、それらがどうでもいいことだと気がつく。雫としては、帝国側のことは勿論のこと、魔王が復活しなくても別に構いはしない。彼女にとって大切なのはわんこたちと楽しく遊べるかなのだから。
魔王などどうでもいい。だって雫は神だから。




