真理と錬神
『錬金術の真理』を習得し『錬神』となった雫。これによって雫は何か特別な事ができるようになった訳ではない。『錬金術の真理』も『錬神』も単純に、雫の錬金術関連の能力を上昇させるモノに過ぎなかった。ただその上昇率が規格外であっただけである。
彼女を遠巻きに見ているクランメンバーたちはドン引きしていた。特に生産職でもあるあまのまひとつが受けた衝撃は誰よりも大きかった。
この世界での生産スキルによるアイテムや装備品の制作には、大きく分けて3つの方法が存在する。1つは材料とレシピを用意して造る自動生産。これは初心者向けのやり方である。大量生産には向いている反面、既存の物しか造れずレシピ以上の物が造れない欠点がある。
2つ目は既存のレシピに手を加える半自動生産。慣れたプレーヤーは殆どがこれで生産している。既存のレシピにある素材をより希少な物に変えたり、完成品に手を加えたりすることでオリジナルのレシピを造る方法である。これならばスキルの熟練度や素材のレアリティーがアイテムの性能に関係してくる。
そして最後は雫がいつも行っている完全手動生産である。生産の過程でレシピなどの自動ツールの手を一切借りない生産方法であり、PSによって性能の差が明確に出るため、一握りの熟練者しか使わない方法である。そのため完全手動での生産は本来圧倒的に時間が掛かるモノの筈なのだ。
「あれってただ素材を合成してるだけじゃないんだよね」
「くらますの話だと『精製』『抽出』『分解』『錬成』『付与』あと細かいのも同時にこなしているらしい。その証拠にアイテムの出来はむしろ今迄より高いね」
「やばー」
「…私の半自動よりも早く正確で、尚且つ高性能か。化け物だな」
雫が行っているのは変わらず『付与錬成』と『魂への干渉』の練習用のアイテム造りなのだが、素人目でみてもその錬成速度が異常だと分かる。その速度は自動生産に匹敵する程だ。
そんな規格外な雫を見て呆けている4人にせーくんが話しかけてくる
「いやいや、シズくんは『錬神』となり神化したスキルを獲得したんだ。あれくらいは当然だよ」
「当然?」
「僕としては速度よりも上限解放の方が恐ろしいね」
武器や防具を強化するのに限度があるように、錬成にも限度がある。スキルの熟練度が上がり、PSが上昇すればそれも更新されていくがそれでも限界は訪れる。今の雫の錬成限界は『紅蓮の炎』や『時空凍結』にもう1つ2つ何かを錬成する程度であった。そういった上限が『錬金術の真理』という神化スキルと称号『錬神』によって大幅に更新されることだろう。
「シズくんが真に『錬金術の真理』を使いこなしたらと思うと…怖いね」
それを聞いて4人も理解する。スキルが新しくなったのだ。当然熟練度なども一新されている、引き継ぎがあってもMAXでは無い。それでも人外の速度での錬成ができている。雫が真に使いこなしたらという想定は彼女たちが思うよりも速いかもしれない。
彼女たちは雫をますます呆然と見つめるのだった。
「そもそも人が神化スキルを会得することがすごいんですけどねー」
「ドリーくん。それは言ってもしょうがないことだ。それこそシズくんだからと言うしかない」




