嫉妬
引き継ぎが上手くいっていなかったため、そのしわ寄せが地下街に来ていたことが発覚した。ただ今さらである。
「ここを治める気はない」
「キャハ、そうかい。まあそう言ってくれるなら助かるぜ。俺の伝達ミスで問題が起きたら、ガル爺がうるさいからな」
「問題ない」
アテナの一言によりこの問題は終結した。被害を被ったゴルディーたち地下街の管理者たちも魔族として、自分たちの遥か上位の存在に文句は言えない。彼らに出来るのはルクアを恨めしそうに睨むだけであった。
「それでです。私はさっきから鳴りっぱなしのフレンドコールに応えなきゃいけないですから、一度戻るですけど、ここは明日から再開でいいです?」
「はい姐さん。善は急げです。姐さんの商品を目玉に商売すれば直ぐに前の活気を取り戻せますぜ」
「キャハハ、俺も知り合いに声かけておくぜ。実際、あのアイテムはヤバいからな」
「私は…友達いない」
「まあできる限りでいいです。私もこれるときは来るです。エリンたちと上手くやれです」
「はい姐さん!」
そう言いった雫は、一度クランホームの孤児院に戻るのだった。
戻ってきた雫を出迎えたのは何故かカンカンの煉歌とそれを宥めるハルであった。
「どうしたです?」
「どうしたじゃないよくらます! 進捗はこまめに報告してって言ったでしょ。何で毎回、狙ったようなタイミングで攻略が進むの!」
「そんなの知らんです。そっちが調整すればいいです」
「どうやって!?」
「まあまあ」
雫は不思議そうにしながら、目でハルに状況説明を頼む。
ハルの説明では今日も『人魔大戦』に向けての会議があったらしい。そこでまた四天王撃破のアナウンスが来たため、煉歌は針のむしろ状態だったらしい。そんな説明を受けた雫の感想は1つ。
「意味わからんです」
「何で!」
「私が勝手に進んで煉歌が怒るのはまだわかるです。同じクランですし。でも別の関係ない奴まで怒る意味がわからんです」
「そ、それは皆で協力しましょうってことだから」
「…ストーリーが進むのは協力に入らんです? やっぱり理解できんです」
雫は他者に興味が薄い。そのため他者を嫉妬することも殆どない。勝手にストーリーを進め、それによって得られる報酬などを独占している雫及び『神の雫』が、一部のクランから嫉妬のあまり非難を受けることなど想像できないのだ。
「クラン対抗戦だと単独行動を良しとしない考えの人もいますから。でも少数意見ですし気にしないでください」
「そうです?」
ハルは、雫が攻略するのを止めると言い出すことを危惧して先んじてフォローする。
しかしハルは少し思い違いをしている。雫は他人がどうこう言ったくらいで自分の考えを変えるほど素直な性格をしていない。
「まあでもどっちでもいいです。ちょうどやりたいことができて、人魔大戦どころじゃ無かったですし」
「え!?」
「さーてやるぞです」
「え、待ってくらます。それはどういう」
他のクランからの難癖が有ろうが無かろうが雫の行動は変わらない。
今、雫の興味は人魔大戦よりも『付与錬成』の性能調査に傾いていた。
そのため会議で提案された雫に残りの一週間程、装備やアイテム造りに専念してもらい、魔国側を強化すると言う作戦は、雫に伝える前に頓挫することとなる。




