元凶は
雫が地下街に帰還した。『不落王』アテナを伴って。そのため地下街は大混乱である。地下街の主に雫が就任したと思ったら、元々の主がやって来たのだから。
「どうです? 『城』に比べたらあんまりギミックが少ないですけど、中々面白いのを揃えたつもりです」
「おもしろい。いいね」
当の本人たちは、そんなことお構い無しに地下街鑑賞を続けるのだった。
そんな様子を端から見ていたわんこたちも、そろそろゴルディーたちが可哀想になる慌てっぷりだったので雫たちの鑑賞会を切り上げさせる。漸く話ができると、ゴルディーは雫に駆け寄る。
「えーと、姐さん。何故『不落王』がここに?」
「何かアテナがここの事知らんって言ってたですから連れてきたです」
「し、知らん? 『不落王』がここを?」
雫はコクりと頷く。ゴルディーは口を開けたまま呆然としている。場に沈黙が流れる。その空気を壊したのは、アテナの他にこの地下街に滞在していたお客ルクア・モントニティーであった。
「キヒヒ、何か懐かしい気配を感じたと思ったら、ジークんとこの餓鬼か」
「誰?」
「キャハ、お前が知らなくても無理はねーか。俺がジークといたのはアイツが女と暮らし出す前だしな。だが間違えねー筈だ。確かにお前からジークの気配がする」
アテナのことを一方的に知ってる様子のルクア。話は更に複雑になってしまったので、取り敢えずルクアに話を聞いてみることにする。
「アテナの父さんのこと、知ってるです?」
「キヒヒ、悪友ってとこだ。アイツの研究を手伝ってやったこともある。折角龍にしてやったのに弱くなったがな」
「へーです。でもアテナに会ったことは無かったです?」
「ねーな。興味も無かった。ただここまで強いなら会いにいけばよかったか、キャハ」
「まあ強いのは当然です。四天王の1人ですし」
「キャハ…ハ? 四天王? こいつが?」
ルクアは困惑した様子でアテナを見る。それを見かねてか、ルクアの秘書らしき者がフォローをいれる。
「ルクア様は『貴族街』に遍在する迷宮を常に攻略しているので、世俗に疎いところがございまして。ルクア様。2年前の魔族王様がお隠れになった時、同じくして旧四天王『絶壁王』ガルジア様からこちらの『不落王』アテナ様に代替わりしました。と言うことをお伝えした筈ですか?」
「キャハハ、俺がそんなことを覚えてる筈が…ん? いや何か覚えてるぞ?」
ルクアは急に真面目な顔で考え込む。それを冷ややかな目で秘書が見つめる。
「それはお伝えしましたから…」
「いやガル爺からだ…「儂は魔王様と共に行く。後任が来る筈だから『ダイダロス』について不足なく教えろ」だったか? 確か2年前だ、キャハ」
「それで?」
「キヒヒ、すっかり忘れてたぜ。その後ガル爺の野郎、クドクド何故俺が四天王を継がないんだって説教しやがってな。しょうがないだろ」
「しょうがない訳無いでしょ!」
主の不始末に秘書は怒鳴り付ける。それを聞いて話が見えた気がした雫はアテナの方を見る。
「聞いてない。『城』に住めしか」
それしか聞いてなかったアテナは『城』の防備に全てを注いだのだろう。となると地下街が追い詰められた元凶はルクアと言うことになる。
お前のせいかよ、とゴルディーは心の中でツッコむ。
「お前のせいかよです」
そして雫は口に出してちゃんとツッコむのだった。




