二龍激突
『不落王』アテナの出自は複雑であった。魔族の中でも優秀な魔法使いを数多く排出する魔女族の名家に生まれたアテナだが、彼女には生まれつき龍鱗が生えていた。魔女族は魔人族と子を成し女の子なら魔女族が男の子なら魔人族が引き取り育てるのが通例であった。しかし龍鱗を持つアテナと母親は、龍の妻と子として蔑まれることとなる。本来なら魔女族による英才教育を受け、立派な魔法使いになる筈が、一人母親から魔法を習う。
しかし結果としてそれが功を奏した。魔女族の教育では全ての魔法を満遍なく教え込まれる。しかし母親は、アテナに適正のある魔法を中心に教えた。そして残りの時間はアテナに宿る龍の力を使いこなすために使った。そのためアテナは、稀代の付与術師であるとともに、龍のステータスを生かして接近戦も行う魔法戦士に成長したのだ。
「……………!」
「同類。いや龍人。勝負!」
アテナも鉄ちゃんに感じるとこがあったのか、闘志を剥き出しにする。2人の龍が激突する。
アテナの戦闘スタイルは、空間付与により自分に有利な状況にし、自分にはバフを相手にはデバフを掛ける。今回で言えば空間付与『物理攻撃無効』を張り、自身の魔法攻撃力を上昇、鉄ちゃんの魔法防御力を低下させていた。
「………!」
「くっ、強い」
そのためアテナも遠距離攻撃による打ち合いを想定していたのだが、鉄ちゃんは『物理攻撃無効』を無視して接近してきた。これに驚きつつも応戦したアテナであったが、接近戦では鉄ちゃんに分がある。
「時間稼ぎ。そうはさせない」
空間付与の弱点は術者もその効果を受ける点。この空間で接近戦を行ってもどちらも傷付かない。しかし空間付与やバフ、デバフを維持しなければならないアテナのMPは削られていく。そのため早く鉄ちゃんのHPを削らなくてはならないのだが、鉄ちゃんが魔法の行使を妨害するのだ。
「………」
「たし、かに。衝撃はある。でもこれくらい」
しかしアテナも歴戦の魔法使いである。鉄ちゃんの猛攻を受けながらも、何とか魔法を行使していく。そのため防御力が弱体化している鉄ちゃんのHPは徐々に削られていく。
しかし苦しいのは依然としてアテナである。まだ雫たちが残っていると言うのを置いても、このままのペースで攻め続けなければ、鉄ちゃんは装備品の効果でどんどん回復してしまう。そうなれば先にアテナのMPが切れるだろう。
「空間付与を変更? でも…」
不安に駆られて、勝負に出るか迷うアテナ。そんな一瞬の隙を鉄ちゃんは見逃さない。鉄ちゃんは『眷属召喚』を行使する。
「………」
「な、召喚系? 間に合わない」
鉄ちゃんのスキル行使に反応するアテナだが、既に一手遅い。ここで『スキル無効』を張ればすかさず鉄ちゃんの思うつぼだろう。そして呼び出された小鉄たちは、今までとは少し異なる姿をしていた。
「幼龍?小龍? 珍しい」
「…………」
鉄ちゃんが龍神になったことで一段階、進化した小鉄たち。彼らは普通なら竜として成熟してから龍となる所を成体となる前に龍となった希少な幼龍なのだ。
そして小鉄たちが進化したということは、当然このスキルも強化されている。
「………」
「な、こんな…」
鉄ちゃんはすかさず『幻鐵龍化』を発動するのだった。
鉄ちゃん戦闘中の小話
「ふーんです。わんこは、『スキル取り消し』を警戒してたですか」
「わんわん」
「…わからんですけどそれは無いと思うです」
「くぅん?」
「だってそれならそれを今、私に使えば鉄ちゃんが消えるです。普通ならやると思うです」
「わ、わん」
スキル効果無効はスキルの発動やパッシブスキルを無効にする。一方でスキル効果が呼び出すだけである召喚系や魂を預けるだけの死合わせなどは効果を無効にしても意味はない。スキルを解除させる必要などがあるのだ。
そのためスキルを取り消せるなら最初にそれをやるだろうと雫は考えた。
「くぅん」
「なんです? 鉄ちゃんたちを哀れむような目で見て」
その考えは実に論理的である。ただ今回は鉄ちゃんがスキルにより召喚されたと思えないのではとわんこは思った。スキル召喚のモンスターにしては鉄ちゃんは強すぎるのだ。そしてそうであれば鉄ちゃんに苦戦してるアテナが可哀想になるわんこであった。
外伝の方で小鉄たちを出そうとして、こっちで小鉄たちが進化したことに触れてないことに気がついた作者。自分の中で完結してる設定が外伝書いてると出てきたりするので面白いですね。まあちゃんと本編書けよって話なんですが。




