不落王アテナ
召集された雫を見て、わんこたちは驚きの声を上げる。それはそうだろう。雫の格好は今まで見たことがない程ボロボロであるのだ。これは新走法である爆走改めて自爆走法の代償である。
「くぅん」
「まあ、わんこがかげろうを消したのは怒ってねーです。私が負けたのが悪いですし。ただ、これを直すですから少し待てです」
「わん!」
かげろうの召喚が解除されてから、自爆走法を思い付くまでのタイムロスが勝敗を分けた。それを素直に認め、わんこを怒らない雫は元々、こんなやらなくても良い勝負の発生原因が雫であることを置いておいて、流石である。
「こら♪ ふざ けろ♪」
「わふぅ」
そのためわんこは、爆発の連鎖に恐怖したアンフェの怒りを素直に受け止めるのであった。
そしてそんな状況を放っておいて数分。瞬く間に装備品の修復を終えた雫は、今現在の状況を確認し出す。
「えーとです。ここは『城』の一番奥ってことでいいです?」
「そうだよあるじ」
「なら早速行くです! ほらアンフェ、わんこも。遊んでんなです」
「はーい♪」
「わふ!」
こうして城の最下層の中でも一際大きく、強大なオーラを感じる扉を開けた。その扉の先には身の丈ほどの大盾を構え、重厚な鎧を装着した魔族が待っていた。
「…早かった。私の城がこんなに。でもそれもここまで。『不落王』アテナがお前たちを葬る」
「…綺麗な声です。コイツもしかして女です?」
フルフェイスの兜で顔を隠しているため気が付かなかったが、体格や装備している盾や鎧からどう見ても男だと疑わなかった雫の予想を裏切る女性らしい綺麗な声。雫は端から自己紹介など聞いていないため、アテナという名前はスルーする。
「きれい…嬉し。でも潰す。私は『不落王』…」
「私は何度も自己紹介を聞くほど暇じゃないです。わんこ!」
「わん!」
声を誉められ動揺したのか再度自己紹介をしだすアテナに奇襲を仕掛ける。アテナの首筋の鎧の隙間を目掛けて影が迫り、確かに突き刺さる。そう見えた。
「危なかった。先に空間付与『魔法無効』を発動してなきゃまともに食らうとこだった」
「わん?」
しかし平然としているアテナ。この現象にわんこは見覚えがあった。『城』のギミックにも同様の効果があったのだ。そして彼女は今、発動と言った。つまり彼女が『城』のギミックの術者であること。それと同時にこんな見た目なのに本格派の魔法使いであることが判明する。
「わんわん!」
「魔法使いです? いやいや、わんこ。あれを見て誰がそんな嘘を信じるです」
「わん」
「いや別にいいですけど。ほいっ!」
わんこ曰く、空間付与なんて代物をできる者は魔法使いとしての才能に恵まれ、努力を重ねた限られた者だけである。つまりわんこの考えではあの重装備は見かけ倒しだという。
そのためわんこが牽制してる隙にボムで倒すよう指示が出る。それに雫は従う。雫がわんこの影に向かって投げたボムは、影中を通ってアテナの元に移動する。
「あれ?」
この初見殺しにはアテナも対応でき無かったようで、ボムの爆破を止められなかった。わんこの予想ではこれで終了であった。しかしその考えは甘い。普通の敵ならば木っ端微塵になる筈の雫の爆破を受けたアテナは、爆煙が晴れても五体満足でそこに存在していた。
「いたい」
「やっぱり違ったです。というか私のボムでほぼ軽傷です。これは鉄ちゃん以来かもです。と言うかです」
「……」
ボムをアテナは難なく耐えたが、兜装備は持たなかったようで、首から口元の肌が露出する。するとそこには鱗らしきものがある。まるで鉄ちゃんのように。
「私の兜…許さん」
「ふんです。私もプライドを傷つけられたです。許さんです! ってなんです鉄ちゃん」
「…………!」
「…わかったです。とりあえず任せるです」
アテナの鱗のような肌を見て何かを感じ取った鉄ちゃん。珍しく前に出てのアピールを受けて、雫も任せることにするのだった。




