わんこですか
雫は軽く絶望した。
戦闘なんてどう足掻いたってできる気がしないのに、戦闘職を選んでしまったのだ。
普通の人なら職業を変えるか、もう一度設定し直す所なのだが、ここは雫。
何をとち狂ったのか、
「まあ多分錬金術師には錬金術師のいいところがあるです。」
思いつきもしない。思いついたとしてもやり方がわからないだろうが。
「そういえば職業にはそれぞれ独自の能力があるとか言ってたです。」
固有スキルのことである。そして『錬金術師』の固有スキルは『錬成』である。
「おっこれが私の能力ですね。なんか0ばっかしです。」
雫はDEX極振りである。生産職でもそんなプレーヤーはいないだろう。
「この能力は、素材を選べば発動できるですか。 ふむふむ、よくわからんです。」
『錬成』は『錬金術師』系統の固有スキルで、素材どうしを掛け合わせて新しい物を作り出す能力である。『錬金術師』の固有スキルは全て戦闘職には優先度の低いDEXにより成功率が変わる。戦闘職とは名ばかりで、初期ステータスでは戦闘が厳しくなる水準までDEXを振らなければどの職よりも弱く、レベルが低いうちはほぼ何もできない。DEXがあればある程度有能なのだがそこまでが大変である、このゲーム随一の不人気職なのだ。
その点雫ならば少しDEXが上がればすぐに『錬成』を使いこなせるだろう。
そう、DEXさえ上がれば。
「攻撃力が皆無です。防御力も皆無です。どうやって敵と戦えばいいですか。もういいです、一回行ってみるです。素材がなきゃダメっぽいです。」
雫はもうやけくそになった。
フィールド 『始まりの草原』
ここは戦闘の感覚をつかむチュートリアル的な所で、たいした敵は出てこない。
しかし雫はそんな雑魚モンスターから3発攻撃をくらったら死ぬほどの紙装甲。
「なんかいいものはないのですか。」
雫が適当にメニューをいじっていると持ち物欄に行きついた。
「食料とポーションとなんですかこれです。」
雫が見つけたのは初心者応援アイテムだった。
・アイテム名 『無死の護符』
消耗品で30分だけいくら攻撃を受けても死なない代わりにこっちのダメージもあたえられなくなる。
「これすごいです。これで安心して素材とやらを集めれるです。」
モンスターに囲まれたときなどの緊急脱出用のアイテムであり、最初のフィールドで使うようなものではないが、雫はそれを使いフィールド内を歩いていく。
20分ほど散策し次のフィールドとの境くらいまで来てしまった雫。そろそろ戻ろうかと思っていると前方にビックリマークが見える。
「なんでしょうかです。」
そういって近づくとそこにいたのはこのフィールドのモンスターのワーウルフがいた。それを見て雫は、
「なんですか。わんこがたおれてるです。」
と、暢気なことを言っていた。すると、
クエスト 『ワーウルフの子供を助けて』
10分以内にワーウルフの子供に食料を与えて
9分59秒
の文字がいきなり目の前に出てきた。
「与えてって言われてもどうやればいいかわからんです。そういえば食料と言えばなんか持ってたです。」
そういって雫はメニューから持ち物欄を選択する。
「ここ押せばいいですか?」
雫が食料の欄を押すと目の前に、クエストクリアの文字が現れた。
「へー簡単にクリアできたです。ん?」
クエストクリアの下には報酬欄が書いてあった。その内容とは…
「わんこですか。」