迷宮の実験台
迷宮都市『ダイダロス』その地下に密かに存在する『地下街』にて阿鼻叫喚が響き渡る。
「我ワれ、きノこ。君モドウるい?」
「お、おい正気になれよ。おい!」
「ドウるいじゃナいなら、ドウるいにナロ?」
のこちゃんず栽培ゾーンでは不用意に近付いてきた者たちは、思考を乗っ取られてしまう。そして寄生された者が運び屋となり、寄生の渦はどんどんと拡大していくのだ。
「と、溶ける! 俺の…」
「武器も溶解されて通用しねー。そもそもこいつの核は何処だよ! どこを攻撃すればいいんだ」
「知らないよ!」
毒沼さんを配置した場所では激しい戦闘が行われていた。と言っても一方的な展開なのだが。本来の実力を発揮すればこうも一方的になることは無いのだが、彼らは液体状のモンスターならば通常ある筈の弱点を頼りに攻撃を繰り返す。そのため無駄に戦力と装備を減らすのだった。
他にも影に引きずり込まれる者や、何もない筈の場所で突如切り刻まれる者。強制転移からの『鉄人兵』との戦闘を強要される者など様々な体験が魔族たちを襲う。
そしてその光景を見つめる2人の影。1人はこの『地下街』の主である雫。そしてもう1人はこの地獄絵図を体験している者たちの主、ルクア・モントニティーであった。
「ここのモンスターたちとギミックの実験台になってくれるなんて有難いです」
「キヒヒ、俺としても助かるよ。娘を見失った奴らの罰を代わりに与えてくれてると思えばね」
「そうですか」
「まあ俺としては家臣どもを出し抜いた娘の成長を喜びたいところだかな」
娘を助けてくれたお礼に『地下街』にやってきたルクア。そんな彼の提案で始まった『地下街』迷宮の試運転は上々の滑り出しであった。『貴族街』に住む魔族を相手に機能しているギミック。これであれば何かあった時に最低限、対処可能であろう。
「まあ『貴族街』に住んでるっていっても底辺クラスの実力だから参考になるかわからんけどね。キャハハ」
「まあそれでもいいです。こっちの魔族連中よりもましですし」
「ああ、わんこさんや鉄ちゃんさんを配下にしてるアンタが持つには弱すぎる魔族どもだよな。何ならもっと質の高いの紹介するか?」
「別にいらんです。単純な強さならどうとでもなるです」
「確かにアンタに半端な戦力を贈る方が失礼か。キヒ」
雫の強さの基準はわんこたちによってどんどん引き上げられている。そのため雫目線で言えば、ゴルディーたちとモントニティー家の私兵団は大差無い。雫が今、求めている物は戦闘力ではなく『地下街』運営の知識や経験であり、その点ではゴルディーたちの方が優れているという訳である。
とそんな話をしてる中、かげろうによる定期連絡が届く。
「キャンキャン!」
「えーとです。おお、わんこたちが『城』に着いたですか。あ、でも道案内は全滅したですか」
「キャハハ、まあアイツらじゃそんなもんか」
「それで…えっです! もう『城』に入ったです? 何でです?」
「きゃぅん」
「まあかげろうに聞いても分からんですか。まあわんこたちにも考えがあるだろうです。取り敢えず追うです。ルクア、そんな訳ですから」
「キヒ、いいですよ。俺はもう少しアイツらの無様な様子を観察させて貰ってるんで、ご自由に」
「どうもです。アンフェ! 行くです」
「りょう かい♪」
雫たちはわんこたちを追って『地下街』を後にするのだった。ゴルディーたちがルクアに怯えているのにも気が付かず。




