地下街迷宮
遅くなりました
『地下街』に必要なのは雫がここを支配していることを外に示すことである。当初ゴルディーはエリンがここを管理してくれれば良いと考えていた。しかし魔族の性質を考えれば雫の力の片鱗くらいは、はっきりと示されてる方が望ましい。今よりも利用者の質を高めるのならばなおさらである。
そのため雫が始めに着手したのは、のこちゃんずが生育できる環境を作ることであった。導師であるエリンを活かすためにものこちゃんずの定期供給は必須である。ただ、のこちゃんずの戦闘スタイルは1本1殺であり、護衛としては安定しない。そのため雫は他の戦力やギミックも必要だと考えた。
「エリンとお前たちの命令を聞いてくれなきゃならんですし、ゴーレムとかがいいです? 後は適当に罠を置いてです…」
雫は楽しそうに計画を練っていく。そんな雫に負けず劣らずなのが、アンフェとエリンである。雫の計画を踏まえて何やら企んでいる様子で熱心に話し合っている。彼女たちの会話から、信者や祈りという単語が聴こえてくるが気のせいだろう。
「俺たちの命令に従うモンスターや罠をどんどん…姐さんは迷宮でも造る気ですかい?」
置いてきぼりのゴルディーたちは、迷宮都市唯一の安全地帯への迷宮建設という暴挙をただ見守るしか無かったのだ。
立ち並ぶ人形たち、そしてなんか毒々しい液体の塊。他にも謎の物体が数個。
「えーとこの人形は?」
「これはゴーレムの『鉄人兵』です。前に小鉄たちに頼まれて造ってたらハマったです。まあスキルは少ないですし動きも鈍いですからそんなに強くないです」
と雫は言うがゴルディーにはそうは思えない。少なくとも自分と同等の戦力はあるのではと考える。
「あ、でもコイツ『鉄人兵』より強いです。鉄龍時代の鉄ちゃんのステータスに、『形状記憶』ってスキルを付与してるです。これなら防衛にピッタリだと思うです」
「そ、そうすか。じゃ、じゃああの液体は何です?」
龍と同じくらいと聞いてもうお腹いっぱいなのだが、聞かずにはいられない存在感を放つ液体の塊。
「毒沼さんです? あれもゴーレムです」
「え? でも液体ですぜ?」
「だからなんです? 私が錬成した毒に『魂への干渉』で魂を与えただけです」
「へ、へー。そうですかい」
質問する度に雫への畏怖が強まるゴルディー。今日のところはこれ以上の質問は止めようと決心する。
と、ここで黒い狼が雫のところに駆けてくる。
「キャンキャン」
「うんです? ああ、かげろうですね。どうしたです?」
かげろう元々、わんこの影魔法『影狼』だったのだが、わんこの進化に伴いどんどん賢くなり今では殆どわんこの眷属となった者たちである。
「キャンキャン!」
「本当です? まあ取り敢えず問題無さそうならよかったです。引き続き頑張るように伝えてくれです」
かげろうが伝えてきたわんこたちの状況によれば、少女を引き連れている様を彼女の実家の家臣の軍勢に見つかり襲われ、それを撃退したら両親が登場。少女の説明も聞かず半狂乱で向かってきたためまた撃退。
倒した後で『偽善の鈴』で作ったストーリーを信じ込ませたら、今度は凄まじく懐かれたという。何でもお礼に『城』までの攻略に力を貸すとまで言われたという。
「そうですか。なら万事解決ということですか?」
「そうじゃないです。何かシロが口を滑らせたらしく、後でこっちにもお礼しに来るらしいです」
「お礼! お礼ってどっちの意味ですか!?」
かげろうにそのニュワンスを伝える能力は無いのであった。
『鉄人兵』
通常個体が初期の鉄ちゃん並みのステータスを持つ。高位の魔族だと少し面倒に感じる程度でさほど強くない
『形状記憶』
ゴーレム版『再生』スキル。これのお陰で龍並みのステータスを持ち、一撃で倒し切らねば何度でも元に戻るとても厄介な鉄人兵がいる。
『毒沼さん』
毒に魂を付与したゴーレム。人懐っこいためすり寄ってくることもあるが、大抵その者を溶かしてしまう。雫のゴーレム全般に言えることだが、雫のゴーレムは魂を与えられて自分の意志で動いてるため、通常のゴーレムに存在する核となる部位が存在しない。そのため弱点が無いことが強みと言える。




