地下街掌握
わんこたちに向かってくる者たちだけを倒すように厳命した雫はよくよく『地下街』を見渡す。向かってくる魔族たちやそいつらに指示を出している連中が『地下街』を仕切っている輩であろう。そして、その他の店主や客たちは雫の行動に驚いた様子で『地下街』から去っていく。
ただ雫の見立てではここを仕切っている連中の実力からは考えられないほど、その他の者たちの質が高い。
「普通、四天王が治めてる都市の唯一安全な場所を弱い人たちに任せるです?」
「わか らん♪」
このアンバランスさであれば、それこそ強さこそ正義という文言を振りかざされ好き勝手する客が出ても良いくらいである。
そうこうしている間に戦闘は終了する。地に伏すチンピラ魔族と先ほどまで指示を出していた店主たち、それと首輪で縛られた剣闘士たち以外『地下街』に人はいなくなっていた。絶対的な戦力差を覚ったのか手下がやられていくのを傍観していたリーダー格らしき男が前にでてくる。
「こちらの不手際で迷惑をおかけしました。すいやせん。俺、いや私はゴルディーといいます。一応この『地下街』のまとめ役をしてます」
「別にです」
「…まあここまでやらんくてもとは思いますが。それよりもお嬢さん、このところ魔国を騒がせてるシズって人じゃねーかい?」
「…何で知ってるです?」
「そりゃー。四天王の一角を落としたってーことで、魔国中の噂になってますぜ」
予想外に名が知れ渡っていることに困惑する。とは言え気にしても仕方ないので先ほどから気になっていた事を聞くことにする。
「まとめ役ってことはリーダーってことです? それなら今までも私みたいな客が来たんじゃないです?」
「…確かにこの体たらくじゃそう思われても仕方がないですが…ここは名目上『不落王』が後ろ楯にいますので」
「名目上です?」
「ええ、まあ。話すと複雑なんですがね。元々ここは魔王様の遊び場の1つとして用意された場所なんでして」
ゴルディーの話によると、ディアボロスではなく魔族王がまだ魔国を統治していた頃、その魔族王のために直属の兵士たちが各地に施設なりを作っていたそうで、ここもその一つであったらしい。ゴルディーたち今『地下街』を取り仕切る連中はその直属兵の手伝いとして働いていたと言う。
しかし魔族王がディアボロスに魔国を任せて姿を見せなくなった後、その直属兵たちも消えたため、突然手伝い程度だったゴルディーたちが『地下街』を仕切る羽目になった。ここで新たに『地下街』を仕切ってやるという奴が現れなかった理由として未だに『地下街』などは魔族王の所有物だという認識があるからである。そのためなのか『不落王』すら積極的に関わろうとしていない。
「元々『貧民街』や『スラム街』の寄せ集めのなんで、足元見てくる客や店主はいますが。それでも魔族王様の威光や『不落王』の名前のお陰で向こうも無茶な要求はしてきませんがね…」
そう語るゴルディーの口調には悔しさが滲んでいる。昔を知っているからこそ今の現状に納得していないのだろう。
「つまり昔は偉い人が後ろにいたから大丈夫だったけどです、自分たちだけだと力不足です?」
「そう…です。ほとんどの奴らが『不落王』がここに手を出さないことを知ってます。でもここの後ろ楯になろうなんて考えるやつはいません」
項垂れるゴルディーを見ながら雫は少し考える。こいつは結局何が言いたいんだろうと。昔の『地下街』は凄かったという話を延々と聞かされたのだ。そう考えると雫も大人になった。昔なら聞かずに帰っていただろう。
雫が不機嫌そうに首を傾げているとわんこが助け船を出してくれる。
「わんわん!」
「え? 私がここの後ろ楯です? そんなめん…」
「ほんとですかい。お嬢、いや姐さん! いや、四天王と同格、いやそれを上回る姐さんが後ろについてくれれば俺たちも安心です」
「おい勝手にです。わんこ!」
「くぅん」
ゴルディーは最初からそのつもりだったのだろう。わんこたちが現れた時点で雫の正体を覚り、わんこたちの力量を手下を使って調べたのだろう。ついでに雫の強さを他者に知らしめようとした。ゴルディーは腐っても『地下街』を仕切ってきた曲者の1人ではあるのだ。つまりゴルディーに逃がすつもりは無いだろし、それらを全て判ってない雫は逃げられないだろう。ならば了承した方が早いというのがわんこの判断であった。
「まあいいです。それなら1つ条件があるです。それと提案もです」
「条件に提案ですか。わかってます。姐さんの好みじゃ無いようですし剣闘士のシステムは廃止させていただきます」
それを聞いて剣闘士として縛られている者たちの期待に満ちた視線が雫に刺さる。しかし雫は理解できないという表情でゴルディーを見る。
「なんで剣闘士が私の好みじゃないんです?」
「ですから、そこの餓鬼を解放したじゃないですか?」
「…私は自分の借金を子どもを拐って返すみたいな、自分の弱さを弱者に押し付けるようなやり方は嫌いです。けどそこの奴らは自分の借金を剣闘士として返してるです? なら私が関与することじゃないです」
一転、剣闘士たちは絶望しきった表情をする。そんな事をお構いなしに話を続ける。
「だからです。拐いですか? それは止めろです。それが条件です」
「わかりました」
「それで提案ですけど、私の商品もここで売ってみないかです」
雫にしては少し意外な提案であった。
【サブクエスト『地下街の掌握』が達成されました。称号『地下街の主』を取得しました。サブストーリー『魔族王の遊具』は進行します。またこれによりPN≪シズ≫の商品が魔国に流通します。魔国の国力が上昇しました 】
冷静なようで心臓バクバクだったゴルディーさん。まあ所詮はチンピラ並みの戦闘力ですしね




