破壊不能の論理
『市民街』と『繁華街』の境界線には家や壁など破壊不能の建造物が立ち並んでいた。わんことシロにも確認したが通り抜けるスペースは無かった。しかし『繁華街』に行く方法は思いの外早く発見できた。『繁華街』との境界線付近の至るところに転移ギミックが見つかった。このギミックはそれと連動した鍵などを持つ者のみを飛ばす類いのモノである。
そして雫たちの見立てでは見つかったギミックの殆どは罠であり、この感じでは対となる鍵も偽物が多く用意されているだろう。そこでギミックの本物を探す組と鍵の本物を探す組に分かれることになった。
「探すの得意なわんこと運が良くなったアンフェでお願いするです。あ、とラスも連れてけです。こっちは適当にやっとくです」
『探求』や『野生の勘』など探索系のスキルが豊富なわんこと、宝箱などの取得アイテムにも『スーパースター』の効果か適応されることが判明したアンフェ。そしてこっちの方が戦闘が多そうなためか志願したラスが『市民街』を探索を始める。
「アンフェも進化してから聞き分けが良くなったです。さてこっちも頑張るです…けどその前にちょっと試したいですね」
それを見送った雫は少し不機嫌であった。原因は先ほど試しに投げたボムで建造物が微動だにしなかった。それだけでもイラついたのだが、その後にその爆発を見た魔族が言った言葉が決定的であった。
「そんなことをしても先には進めないぞ。その壁、というか迷宮化によって創られた建造物は全て破壊不能だ」
破壊不能の物はこれまでも存在した。しかしそれはダメージ無効エリアや侵入禁止エリアに配置されていたり接触不可の物であったりしたため攻撃ができなかったに過ぎない。しかし今回は攻撃は可能である。魔族たちが自ら造った建造物は破壊可能であるようなのに、迷宮産の建物は破壊不能と言われても納得はできない。
「鉄ちゃんみたいに防御力が凄かったりです、耐久値が無限にあったりみたいなロジックがあると思うです。本当の破壊不可能なら他のと同じように攻撃そのものをできなくすると思うです」
攻撃が当たるならば破壊できないのは自身の力不足だと考えた雫は、わんこたちが一生懸命鍵を探してる間、どうすれば破壊できるかを考え続けた。
そして1つの方法を思い付く。
「まあこれならです…まあこれで駄目なら一旦諦めです」
「あるじ。やっと?」
「悪いです。まあ取り敢えずやるです。シロも手伝えです。あれです。あれを使ってです」
「いいよ」
雫は所有するボムの中で単体攻撃に特化した物を選択するのだった。
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わんこたちの鍵探しは順調であった。そこらに置いてある宝箱の中や住人が所有していたり、或いは簡易クエストのように、モンスターに襲われている魔族の子どもが助けを求めていて、助けると鍵をくれたりと色々であった。
「わん!」
「ほん もの わか らん♪」
「ピィィー」
ただ集めたは良いがそれのどれが本物なのか。そもそも本物があるのかはわんこたちには分からない。そのためある程度集まったため一度雫たちの所に戻ろうと考えた。
その時、雫たちがいる方向から聞き覚えのある轟音が鳴り響いてきた。
「わんわん!」
雫がボムを使用しなければならない状況とは、鉄ちゃん1人では対処出来なかったと言うことである。そのためわんこはアンフェたちを影に仕舞い慌てて駆け出す。
今のわんこの速さであれば影を使わずとも数秒で雫の元にたどり着く。そして自分が相当に焦っていたことを思い付く。
「あ、わんこです。ちょうど良いです。さっさと行くです」
そう言えば雫は建造物を破壊できなかったことに拗ねていた。ならばこのような行動もとるだろう。ただ結果的には良い判断だった。とわんこは破壊不能の筈の壁が無惨に破壊された様子を見つつ思う。
そして同時にどうやって破壊不能の建物を壊したのか疑問に思う。
「くぅん?」
「ああ、これです? ここの建造物の殆どに破壊されないためのスキルが付与されてたみたいです。それにしてもシロの『死の運命』は壁とかにも効くですね?」
「わん!」
そんな説明を聞きつつ壊れた壁を抜けて『繁華街』に進むのだった。
これを受けた運営が直ぐに修正したのは言うまでもない。
『破壊不能』
色々とあるが今回は『不壊』『不滅』『不朽』などのスキルが付与されていた。だがシロのとあるスキルで無効化されたため破壊された。それでも並みの攻撃ではびくともしない。
そもそも雫は正規ルートでも攻略できたので今回の行為は雫の意地と運営側に多大なストレスを与える意味しかない。
『転移ギミック』
転移ギミックは迷宮にはよく用いられるが鍵を持っていなければ作動しない点でかなり親切設計。ただギミックと鍵、両方に偽物があるため正解しにくく、間違えると様々な罠が降り注ぐため難易度はそれなりに高い。そもそもわんことアンフェのコンビでないならそんなに鍵を集められないだろう




