迷宮都市ダイダロス
雫がナルタルからの依頼を終えたのとわんこが『不落王』が治める都市『ダイダロス』にたどり着いたのは、ほぼ同時であった。ただわんこたち曰くすぐに『不落王』の所には行けそうに無いとのこと。何やら事情がありそうだったので、『ダイダロス』集合にして行くついでにナルタルに納品することになった。
「化け物かよ。俺様の専属どもが逆立ちしても造れない代物を数日で」
「よくわからんですけどこれでいいです? いいなら私は早くわんこたちと合流したいです」
「いいぜ。文句ねー性能だ。この人形どもも俺様が作る転生体より断然強いぜ。くそが!」
ナルタルは誉めてるが節々に悔しさを隠していない。高ステータスの人形を数十体にナルタルや『十二守護魔』の装備の強化など、かなり重い仕事をたった数日で仕上げてきた。魔国にいる四天王お抱えの鍛冶師総出で取り組んでもこんなに早くできない。それどころか時間を掛けたところでこれ程のクオリティで仕上げることは不可能だろう。ナルタルにはこれが魔国の敗北に感じられたのだろう。
とは言え雫にそんな感情は関係ない。それに付き合う情もない。
「じゃあ報酬も貰ったですし私は行くです」
「…ちょ、待てよ!」
「…何です? まだ何かあるです?」
反射的に呼び止めてしまうナルタル。しかしこれで何も無ければ雫に構って欲しいみたいでガキっぽくみられてしまう。それはナルタルのプライドが許さない。そのため何とか話題を捻り出す。
「…えと、そう! 今から『ダイダロス』に向かうんだろ?」
「そうです。何か問題があるらしいです」
「彼処は別名『迷宮都市』と呼ばれてやがるからな。まあ精々気をつけることだぜ」
そう言って内心ほっとしながら去っていくナルタル。それを見送りながらも雫は聞き慣れない『迷宮都市』のことで頭がいっぱいになっていた。
『ダイダロス』でわんこたちと合流した雫は先ほどからの疑問をぶつけてみた。
「さっきナルタルがここは『迷宮都市』だって言ってたです。いまいち迷宮とやらもよくわからんですけど、どう言うことです?」
「わんわん!」
迷宮やダンジョンという言葉は希にゲーム内で目にするのだがフィールド等との違いがイマイチ理解できない。そんな雫が『迷宮都市』と言われても分かる筈がない。
だが雫はこれまで迷宮と呼ばれる類いのフィールドを何度も経験している。鉄ちゃんとであった図書館も迷宮の一種だろう。そのためわんこたちもこれまでの経験を使って説明する。
「ということはです。何か迷路みたいなフィールドが迷宮です?」
「だい たい♪」
「そんなかんじ」
「そうですか。ならここは街全体が迷路になってるですか。笑えるです」
「…わふ!」
わんこは雫が正しく理解できていることに少し驚く。わんこたちがそれを聞いたとき似た名称で『ダンジョン街』というものを連想してしまった。これはゲーム内の機能の1つで街中に様々なダンジョンが存在してる。最初わんこたちはこれと勘違いしてしまっていた。
しかしここ『ダイダロス』は全体が迷宮と化した都市である。都市であるため住人も存在しており店や宿もある。その上でモンスター等が随時出現し襲撃してくるのだ。中にはただの民家すら迷宮化してる場合もあるという。
「…ということは頑張って進んでって四天王のいる所までたどり着かなきゃいけんです?」
「わん!」
「それにねあるじ。ふらくおうがいるしろもすごいめいきゅうなんだって」
「めんどうです。確かにこれは時間がいるかもです。…いやボムで道を切り開けばいけるです?」
雫はすぐに迷宮の建造物が破壊不能オブジェクトだと知ることになった。
『ダイダロス』
都市全体が迷路となっている。住人もいるが基本的にはモンスターに襲われない。おそらく仲間だと勘違いされているのだろう。
ただ家の中などからも出現するため鬱陶しく思った住人がモンスターを葬るケースも多いため、そこまでモンスターが闊歩している訳ではない。




