死術王の完敗
天使の仕事とは色々とあるが、ぱっと思い付くのは神からのメッセージを運ぶことと、天国に魂を導くことだろう。悪い言い方をすれば天国版の死神である。そしてこの場にはナルタルによって無理やり縛り付けられた魂がウジャウジャいる。
「かえ れ~♪ かえ れ~♪」
しかもアンフェは天使長にランクアップしている。今の彼女の権能ならばナルタルの『霊魂束縛』を上回れる。これでただの転生者となった『十二守護魔』。しかも先ほどまでよりも肉体のレベルは落ちている。フルメンバーが揃った雫たちに奮闘虚しくやられていく。
最早、ナルタルに成す術は無い。『輪廻の門』での再転生や他の魔法での攻撃を許してくれるほどわんこや鉄ちゃんは甘くない。そもそもナルタルは支援系の魔法を得意とする術者だ。この状況でナルタルに残された手は根比べくらいである。
「アンフェ。それでナルタルもやっつけられんです?」
「むり だな♪」
ただアンフェにもナルタルを守る『霊魂貸与』を破れるほどの権能は無いようだ。と言うのも『霊魂束縛』は死んでも存在できるという不死であり、『霊魂貸与』はそもそも死なないという不死である。死んだ者の魂は導けても死んでいない者のは難しいのだ。
そうなるとこのパーティーで魂についてどうこう出来るのはあと雫くらいだ。
「シズ やれ ば♪」
「うーんです。気乗りしないです。そもそも上手くいかんと思うです」
雫の持つ『魂への干渉』は汎用性が高いスキルである。そのため色々な事ができる。しかしそれを駆使してもナルタルの不死性を除去するのは難しい。
『霊魂貸与』はスキル無効化が意味をなさないと言っていた。つまり解除条件は貸与された相手を倒すことのみなのだろう。この事から仮にスキルを『魂への干渉』で変質させたり消失させたりしても魂が戻ってくる訳ではないと考えられる。
次にナルタルの魂そのものに干渉したとして、魂をボロボロにしたとしても貸与された魂が無事であるならナルタルは生き続けるだろう。そうなると選択肢は2つしかない。
「シンプルに最後の守護魔を探すか魂を変質させるかです」
1つは『霊魂貸与』の前提である貸与された者を倒してスキルを解除させること。もう1つは貸与された魂がナルタルの魂であるから問題なのでもはや同一とは言えないほどナルタルの魂を変質させれば、貸与された魂とのリンクも外れるだろうという案である。
「わんわん!」
「…まあわんこたちがそれなりに頑張っても見つけられなかった最後の1人です。難しいのはわかるです。でも後者はリスクが高いです」
魂の変質。どのくらい変質させればリンクが切れるかわからないが少し別の魂と重ねたくらいでは難しいかもしれないし、そもそも雫でも成功率は低いだろう。しかもやったことが無いから本当に成功するのかも疑問であり失敗したらどんなことが起こるかも分からないのだ。
「はっぽふさがりか」
「八方で…す。いやそうでもないかもです」
『十二守護魔』の最後の1人はわんこの嗅覚でもシロの仙術でも感知できないほどの隠れ上手だ。もっと念入りに探せば別かも知れないがそれをしてる間に雫は飽きるだろう。自分自身で確信してる。となれば素早く見つけられれば問題ないことになる。
「わんこと鉄ちゃんはコイツが反撃してこないようにしてです。アンフェとシロは私の手伝いです」
そう言って雫はじっと堪え忍んでいるナルタルの元に行き『魂への干渉』を行使する。
「チッ、やめ、ろ」
「わん!」
「ここにある本体の魂と貸与された魂が繋がってるなら、それを辿っていけば…です」
初めての使い方で覚束無い様子の雫をアンフェたちもサポートする。何をされているか覚ったナルタルも抵抗しようとするが『影縛り』で身動きを封じられる。傍らには鉄ちゃんも待機しており万全な体制で挑む。
そしてか細い糸を紡いでくような緻密な作業が数分間続く。そして遂に雫が行使を止める。
「見つけたです」
「わん!」
雫からの情報が即座に共有され、わんこが討伐に動き出す、それに合わせて『影縛り』が解かれるがナルタルと雫の間には既に鉄ちゃんが立ち、アンフェたちも防御の構えを見せる。
それを見て遂に万策尽きたことを覚りナルタルは天を仰ぐ。
「くそがよー! 相性悪すぎたろうが 」
この勝負『死術王』の完敗であった。
ナルタル
彼が最初から『十二守護魔』と一緒に戦い彼らののサポートに専念してたらもっと強いのだが…死霊術師は他社犠牲の精神が基本であり献身など持ち合わせておらず、自身のリスクがある行動を極力避けた結果、何も出来なくなった。




